侵入 5
この学生二人を襲ったのはもちろん、トーゼツとミトラの二人であり、気を失わせた彼らをトーゼツはそのまま邪魔にならないように部屋の隅まで引きずり置く。
その間、ミトラは学生に頼んで手書きで描いてもらった地図を眺めている。
「おおまかに見ればアナーヒターの事前情報の通りだわ。メイガス・ユニオンは五つに区分けされている。南にある学生区、北の実験区、西の事務区に東が訓練区。最後に会長室や会議室のある中央区。でも詳細に見れば異なってる点もある」
「どういう所だ?」
「学生区に図書室が設立されていたり、実験区には新しい研究室が設立されていたりね」
過去にアナーヒターがメイガス・ユニオンに所属していたのは術聖に成る前であり、数十年も昔の話だ。内装が変わっていてもおかしな話ではない。
「さて、ここからどうする?黒いローブの奴らの痕跡を調べるには何処から手をつけようか?」
「そうね……怪しい所としては事務区か、中央区でしょうね。メイガス・ユニオンと黒いローブの奴らがどのような繋がりであれ、書面とか、魔術による録音とかで記録があるかもしれない」
「じゃあ二手に分かれるとしますか。俺は西の事務区に行く」
「私は中央区ね」
すぐに何処へ向かうか決めた二人の視線は自然に学生の方へと向く。
「んで、今度はこいつらをどうするかだ」
今回の侵入計画では、入念に調査したうえで来た。
この下水道と繋がるマンホールがあるこの生命実験室……というよりメイガス・ユニオン全体の話だが午後七時から九時の二時間は休憩時間ということで実験区からは警備の者以外がいなくなるという話だったので、その時間を狙ってきたのだ。
さらに九時以降からは残業や夜勤の者しかいないという話でもあった。
だからこそ、今、ここで学生二人に遭遇したのは想定外の事だったのだ。
咄嗟に脅し、布袋をかけて姿だけは見られないようにしたわけなのだが……。
トーゼツとミトラは会話が聞かれない程度の小声で相談し始める。
(あまり意味の無い殺しはしたくないし、死人が出れば騒ぎも大きくなる。だからと言ってこのまま拉致して連れ去るなんて事もしたくはない)
そのようにミトラは言う。
彼らにも日常がある。それを潰すなんてことは絶対にやりたくはない。
しかし、場合によっては自分たちの命も脅かす可能性もある。
(トーゼツ……君は記憶改竄するって言ったでしょ?もう彼らに出来ることはやってもらったし、改竄して解放してあげても良いんじゃないかしら?)
それに対し、少し不安な顔してトーゼツは答える。
(記憶改竄するとは言ったが、俺に出来るのは『忘れさせる』程度だ。『記憶を消す』まではいかない。もし、今回の件がメイガス・ユニオンに漏れた場合、コイtツらの記憶を復活させる可能性がある。つまり、俺たちの存在がバレてしまうかもしれないんだ。一ミリでもその可能性があるなら──)
トーゼツはいつでも記憶改竄の魔術をすぐにかけられるように指輪の力で空間に穴を開け、そこから一本の杖を取り出す。しかし、もっと別の良い手があるなら……という表情であった。




