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侵入

 一方、その頃。街の地下に張り巡らされた下水道では……。


 「今、どの辺りだ?」


 羊皮紙をぐるぐるに巻いて筒状にした状態で真っ暗な下水を歩くのはトーゼツであった。


 どうやら、羊皮紙には魔力を光エネルギーに変換するための魔法陣が描きこまれているようだ。筒状にした羊皮紙の先がビカビカと光っている。


 トーゼツが声をかけた先には剣聖ミトラ・アルファインがいた。


 「少し待って。えっとね……」


 そういって地図を広げる。


 どうやら街の詳細が描かれた地図のようで、そこにさらに手書きで地下に張り巡らされた下水道と外へ出るためのマンホールの位置が描かれていた。


 「次に分かれ道があるからそこを左に曲がる。あとは真っすぐ進むだけでメイガス・’ユニオン本部にたどり着けるみたい」


 「ようやくこんな嫌な臭いのする場所からおさらばってわけだな」


 「帰りもこの道を使うから、すぐに『おさらば』から『ただいま』になるよ」


 「はぁ……憂鬱になるような事言うなよ」


 しかし、ミトラが言っていた曲がり道を通ってすぐにその嫌な匂いは消え去り、別のモノへと変化する。


 「これは……薬品の匂いか?」


 鼻がおかしくなってしまうような空間から、今度は頭が痛くなるような匂いに変わる。それはさらに彼の表情を歪ませる。


 「匂いだけじゃないわね。下水に微量ながらも含まれていた魔力も増えてきてる。まぁ、メイガス・ユニオンの実験部署に繋がってる下水だから何もおかしなことじゃないんだけどね」


 一体どんな実験をしているのか知らないが、これほど魔力汚染された液体や薬品を垂れ流しするのは環境的に大丈夫なのだろうか?と心配してしまう。


 そしてもうしばらく進んでいると──


 「ミトラ、止まれ」


 地図を持って歩き続けていたミトラの肩を叩き、その足を止めさせる。


 「ここから先、二重の結界が張られてる」


 かなり功名に隠されているが、よく眼を凝らし、魔力の痕跡を探すとそこには巨大なドーム型の魔力で出来た透明な壁が聳え立っている事が分かる。


 「さて、当初の計画じゃあアナーヒターが結界の解析をしてくれているはずなんだが──」


 そのようにトーゼツが思っていると、チューチュー!と可愛らしいネズミの鳴き声が響いてくる。


 トーゼツとミトラには聞いた事のある声であった。


 「「キューソ!!」」


 たたたたたッ!とその小さな足で人の歩く下水道の通路をこちらに向かって真っすぐ向かってくるネズミに気づくと、すぐさま近づき、トーゼツが手のひらに乗せる。


 「なんでこんな所にキューソが?」


 「キューソはアナーヒターに懐いてるんだ。だから勝手にアナーヒターが魔術学連合から持ち出したりしてるんだよ」


 学連のマスコット的存在をこんな危険な場所に連れてくるなんて……他の魔術師にボコボコにされちまうぞ。なんて思いながらも、その本人であるアナーヒターがいないため、グっとその言葉を喉の奥へと押し込むのでミトラであった。

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