エルフの国 9
アナーヒターは紙とペンを取り出し、何か書きながらエルドに解析した結界について答え合わせのように教え始める。
「エルドの言う通り、結界は二重に展開されていてどっちも探知系。入った瞬間、相手にバレるような感じだが問題は何を探知しているのか、という話だ」
魔法陣というのは魔力が流れやすく、また魔術が発動しやすいようにシンプルに無駄の無いように描く。しかし、きっとメイガス・ユニオンもそこを解析されないようにわざと無駄に、遠回しに魔法陣を描いて魔力の流れをおかしくし、解析しにくくしていたのだろう。
しかし、何を探知しているのか。それが分からなければ、トーゼツ達が侵入する事が確実にメイガス・ユニオンにバレてしまう。
「お前、今回の解析をどのようにやっていた?」
「まず結界の規模、範囲を確認したうえで魔力の流れを遡ってその効果を調べようとしてました」
「なるほどね。確かにそれが正攻法だけど、それが通用するのはある程度まで。術聖レベルの魔術になるとそれだけじゃあ解析は出来ない。あらゆる知識、技術を応用する。それは魔術学を超えたモノでさえ活用する。まぁ、そこにいる化け物は例外だけどな」
そういってアナーヒターが指さす方向にはアナトがいた。
「まぁ、私は見ただけでなんとなく結界の解析できたけどな」
「なっ?参考にもならないだろ?」
化け物どころじゃあ無いだろ……。
しかし、そうなるとよりアナトの異常さが垣間見える。
魔術だけを極め、術聖となったアナーヒター。それに対し、あらゆるモノを極めた結果槍聖であり、弓聖であり、そして術聖に達したアナト。
一点集中で極めたアナーヒターでさえアナトを超えられない。
やはり彼女は人の領域どころか、この世のモノ全てを脱した存在のようだ。
そんなアナトの事は一旦置いて、話を続けていく。
「私が解析したのは、メイガス・ユニオンに入った直後だ。結界の規模はメイガス・ユニオン本部を囲っている塀を覆うように展開されている。つまり私たちはメイガス・ユニオンを訪れた際に一度、結界を潜っているというわけだ。そして、そこが手っ取り早く解析を行うチャンスだったわけなんだが……」
説明しながらアナーヒターはズボンのポケットから何かを取り出す。
彼女の手の中に居たのは意外なモノであった。
「ネ……ネズミ?」
そこには明らかに自然に生きてきたモノではない、綺麗な毛並みでアナーヒターに懐いているチューチューと可愛らしく鳴く一匹のネズミがいた。
「お前、キューソを連れてきてたのか!?」
アナトはそのネズミを見て驚く。
「まぁ、許可なく勝手に連れてきたんだけど、元々、私に懐いているから良いじゃないの」
「……お前、学連の奴らに何か言われても知らんからな」
「それで結局、何なんです?そのネズミは」
「この子は魔術学連合の方で実験用のモルモットとして使われていたんだネズミなんだけど、いろんな実験体された結果、魔物になった子なのよ。しかも人間の言葉なら分かるぐらいの知能は持ってるし、下級魔術程度なら使えるわ。今じゃあキューソって名前もつけられて学術連合の可愛いマスコットなんだ」
キューソは大人しくアナーヒターの手の中に収まり続けており、そんなキューソをアナーヒターは優しく指で撫でていた。




