エルフの国 8
再びローリィに案内されてメイガス・ユニオン本部へ出るエルド達。そのまま乗ってきた馬車に入り込み、今度は街中にある宿泊施設へと入る。
そこの宿泊施設も民営のモノではなく、国営。事前に調べていたため、知っていた話なのだが、そこはメイガス・ユニオン関連の場所であった。
というのも冒険者のようにメイガス・ユニオンも世界各地を飛び回って活躍する者も少なくない。ゆえに彼らのために休息出来る場所として世界中にメイガス・ユニオンが運営している宿屋がある。
今回、エルド達が泊まる場所はその宿屋を使わせてもらうことになっているのだ。
一人一部屋ずつ借りる事になっているのだが、現在は情報整理や今後の動きについてより話し合うためにアナーヒターの部屋で集合していた。
「しかし、シャルチフの奴め。『査察も自由にしてくれて構わない』と来るとはな」
アナトは溜息をつきながらつぶやく。
「まぁ、どれだけの人数を動員してもバレることはないというほには情報操作に物的証拠、あらゆるモノをもみ消す事が出来てるって事かもな」
そのつぶやきに反応するのはアナーヒターであった。
「大体、そういうのはもう想定していたことだろ?だが、全ての証拠を消せるわけじゃないし、今回は黒いローブの集団関連の情報さえ引っ張り出せれば良いんだ。だからこそ、裏から侵入するトーゼツとミトラに任せるしかないんじゃないか。ってことで──」
アナーヒターの目線がアナトからエルドに移る。
「そろそろ出来そうか?」
「……もう…ちょっと……待ってください!」
床に魔法陣の書かれた大きな羊皮紙を置き、その魔法陣の中央に座って魔力を流し込み、魔術を発動し続けているエルドであった。
一体、どれほどの時間、この状態が続いているのか。エルドの顔には滝のように汗が流れており、また魔力もドンドン消費されている。
これはメイガス・ユニオンに張られた結界の解析作業の最中である。
元々、アナーヒターがやるという事になっていた。が、術聖を目指すエルドの特訓がてら、まず試しにエルドが解析作業を行っていた。
しかし、エルドはとても苦戦しており、とてつもない複雑な結界魔術が発動されているのが分かる。
「おいおい、この程度の魔術結界の解析に時間かかりすぎないか?」
アナーヒターはそんな風に軽く言うが、エルドにとっては頭フル回転で、肉体に溢れる魔力を必死に流しているというのに。
大体、そこら辺にいる魔術師と術聖を比べるのがおかしいってハナシだ。
「とりあえず、何処まで解析出来てる?」
「……二つの結界で構成されてて、かつ侵入者を妨害するのではなく探知系だという所までは分かってるんですけど…」
「なんだ、そこまで出来てるんなら上等だよ。んじゃあ、もう大丈夫だ。止めて良いぞ。私はもうとっくに解析し終えているからな」
嘘……だろ…?
凄まじい量の魔力に体力、時間を使ったというのに。
アナーヒターは魔法陣なしに、もう解析し終えていたのか。
自分の実力がまだまだであると自覚すると同時に術聖が魔術師としてどれほどの高みなのかを改めて理解させられるのであった。




