エルフの国 6
エルドはとてもヒヤヒヤしながらも、何とか争いにならずに済んだことをホッとしていると、ピタリ、と前を歩いていたローリィの足が止まる。
「さて、そんな話をしていたら着きましたよ」
ローリィが止まった場所はとある部屋に入る扉の前であった。そして扉にひもでぶら下げられていたのは『会長室』と描かれたプレートであった。
コンコンッ!とローリィがノックをする。
「会長、冒険者連合本部からの使者です」
その言葉に「入れ」という老人の言葉が響く。
許可をもらった所でローリィが扉を開け、「さぁ、どうぞ」と中へ進むよう指示する。
開いたドアから見える景色がまさに豪華絢爛。華やかな雰囲気であった。
質の良さそうな絨毯。壁に飾られた剣や杖といった装飾品。
そんな部屋に置いてる立派な机の前にどっしりとフカフカの椅子に座っているのは老人のエルフ一人であった。そして彼こそがこのメイガス・ユニオンの会長であるとも簡単に予測できる。
その空間へと三人は足を踏み入れる。
「ふむ、私のこの部屋に人間が入ってくることがあるとはな。組織設立時には考えられんことだよ」
その老人は三人を見下すような眼で眺める。
そしてローリィとまではいかなくても、一般人であれば怖気づいてしまうであろうほどの威圧感。やはりこの老人も若い頃はそれなりに腕が立つ魔術師だったのだろうか。
そんな老人にアナトは軽い態度で口を開く。
「アンタが会長のツーヴェル・シャルチフ殿か?」
「そういう貴様がアナト・サンキライか。噂には聞いていたが、人の領域を超えた実力を持つのは間違いないようだな……」
メイガス・ユニオンはセレシアが設立した国家機関だ。そしてその国家機関の会長であるシャルチフはもちろんのこと、セレシア国内で強く権力を持つまさにトップの人間の一人。そしてエルフ至上主義を固めて出来たような人物でもある。
そんな彼の眼に映るアナトの姿はまさに──
「化け物め」
思わず口に出てしまった言葉だが、アナトは「褒め言葉として受け取っておくよ」と余裕の表情で微笑み返す。
「しかし、これほどだとはな。百聞は一見にしかずとはまさにこの事か。四年前……いや、五年前だったか?あの時、研究者が君を欲しがったのを今なら理解できる」
それを聞いた瞬間、アナトの余裕な態度が一変。それは何と言うか……抑えられぬ感情。怒りや憎しみと言った負の感情が彼女の中で渦巻き始め、それが顔に現れ始める。
「お前……ここで戦争するか?『私』と『メイガス・ユニオン』で」
「ふははっ、『戦争』というのは団体と団体で発生するのだよ。貴様個人と発生するのは『戦争』じゃない。一方的な数の暴力による『殺戮』だよ」
「黙れ、お前ら全員を私一人で蹂躙するぐらい一週間ぶっ続けで暴れればわけないさ」
「怖い、怖い。ならばこれ以上、無駄口を叩くのは止めにして本題へと入るとしようか」
このような険悪ムードで話は進んでいくようだ。
……もう帰りたい。そんな気持ちをエルドは頑張って飲み込むのであった。




