エルフの国 5
メイガス・ユニオン内部も外見通り、中世西洋の城のような内装になっているがそれはあくまで見た目だけのようだ。
というのも、本当に中世西洋の城であれば、灯りは蝋燭の火しかないため暗いはず。またこの掃除をする使用人やメイドが居たとしてもこの広さを一日で掃除出来るわけがない。一週間与えられても不可能だろう。なのに清潔感がある。
魔術で全て可能にしている、と言われればそれまでの話なのだが、それでは灯りや掃除の術を発動させている者は誰になるのだろうか?魔法陣も馬鹿でかくなるだろう。一体、どこにそんな魔法陣を描いているというのだろうか?魔力も何処から持ってきているのか?
魔術も万能ではない。
だからこそエルドはこの建物がどういう構造なのか、不思議でしょうがなかった。
そんな風に観察しながら辺りを見回していたエルドに気が付いたのか、案内のため前を歩いていたローリィが口を開く。
「この城は数千年前に建てられたモノで、誰が、どのような目的で造ったのかは不明です。しかし、近年発掘された資料からどうやらかつて神代の頃の魔術師が建築したということだけが分かっています。それでもかなり老朽化しており、城に組み込まれていた術は崩壊していました。しかし、二百年前、メイガス・ユニオンが設立した時、この神代の建物を復活させることで世界に我々の技術を知らしめ、それと同時にこの城を活動拠点とするということにしました」
なるほど、だから古めかしい建物でありながらも近未来のような雰囲気を持ち、エルドの持つ知識では理解出来ない空間になっていたのか。
であれば、この建物を構成している魔鉱石にも納得がいく。
魔鉱石の加工は現代でも困難だ。魔具、なんてモノもあるがその多くは職人が素材を選び、数週間……いいや、長ければ数か月もの時間をかけて加工していくものだ。
建築の一部を魔鉱石、と考えればまだ分かるが全てを魔鉱石で築き上げようなんて考える者は現代ではいないだろうし、そもそも出来るわけがない。
「とすると、見た感じ城の復興は終わってるみたいだし、アンタらは神代の技術を再現することに成功したってことなのか?」
そこにアナーヒターが質問をする。
「いいえ、まだ復興は終わっていません。今は七十パーセントと言ったところですかね。なんとか魔鉱石の加工まではいったのですが、城に仕組んである魔術とその魔法陣については不明な点が多く、発動しているモノも中にはあるのですが、それは復興の最中、偶然に発動再開したモノが多いのですよ。まったく、神代の技術には謎が多い所です」
「だろうな、アンタらみたいな未熟な魔術師どもが揃った所で神代の術を蘇らせることが出来るわけないからな」
「ちょちょちょ!何言ってるんですか、真正面から喧嘩売るような言葉を言っちゃって!?」
エルドは深刻そうな表情でアナーヒターを見るのだが、言った本人であるアナーヒターは何とも思ってないようだ。アナトもまた興味無さそうにあくびをしている。
何度も言うがここは敵地のど真ん中。なのにそんな事を言うのは敵全員に雑魚だと言い放っているようなものだ。
しかし、ローリィは「はははっ」と笑って見せる。
「さすがは術聖アナーヒター、アナタにとって我々は未熟ですか。確かにアナタを超える術師はメイガス・ユニオンにいないかもしれませんね」
やはり、四大聖レベルの戦士。その程度の言葉で怒ることもなければ、無駄に動じることはなく、アナーヒターの言葉を受け止めたようだ。




