エルフの国 4
数分、馬車をゆっくりと進めて到着した場所は、メイガス・ユニオン本部内に入るための大きく、重そうな鉄の門がそこにはあった。
遠くから見えてはいたが、改めてメイガス・ユニオンの本部である建物を見る。
それはまさに巨大な城。しかし、それは西洋のように石やレンガで構成されたモノではないようだ。それは不気味に黒く、何かしらの魔鉱石で構成されているようであった。と言っても、さすがに調和神アフラのいるような、研磨された黒曜石のようなほどの闇ではない。
それに、屋根には雪が積もっていることでその不気味さは少し和らいでいるような気もする。
(なんだか、嫌な雰囲気だな……)
覚悟を決めていたエルドも、この異様な雰囲気に飲まれそうになる。
そんな中、ゴゴゴッ!と巨大な鉄の門が開く。
「お待ちしておりました、冒険者連合本部使者一行」
そこに現れたのは、やはりエルフの魔術師であった。
造り物のように透き通った肌に、真っ白な無垢を表した綺麗な髪。そして両手の指全てに何かしら術が込められているのであろう指輪を嵌めている女であった。
美しいという雰囲気があるのはもちろんなのだが、それ以上に塀の外で警備していたような魔術師の雰囲気ではない。これは明らかに──
(四大聖レベルの術師か……!)
エルドにもひしひしと伝わってくるこの威圧感……!
しかし、服装や雰囲気は魔術師なのだが、腰に下げているモノは剣という魔術師専門の組織であるメイガス・ユニオンとは思えない武器であった。
だが、魔術師として魔術の研究もしているエルドは認知していた。
世間では剣術や槍術、弓術は魔力を使って発動させるが魔術ではないとされている。しかし、魔術学としては魔力を用いる術全てが魔術とされている。
だからこそ、この女は魔術師というより剣士の分類になるのだろう。だが、魔術の研究をやる剣士という冒険者目線からすれば不思議な立ち位置にいる者になる。
「アナタたちの案内を任されています。チャミュエル・ローリィと申します」
きっと、彼女の本当の役割は案内なんかではない。
監視だ。
いつ、どのような怪しい行動を起こしてもすぐに止めるためにやって来た魔術師なのだ。
必要とあらば、きっと我々をいつ殺しにかかってきてもおかしくない。
だが、そんな相手にアナトは「おぉ、よろしく!」と軽く言って見せる。
この余裕は相手を舐めたようなものではなく、状況を甘く見ている愚か者のモノではない。
敵地であろうと、誰が相手であろうと仲間を守りながら捻じ伏せて見せるという己の強さに自身を持っているからであり、実際に彼女単体でメイガス・ユニオンを崩壊させるほどの実力を持っていると言っても過言ではないだろう。
だが、そんなアナトにローリィもまた負けずに優しく微笑む。
「それではついてきてください」
そういってローリィの背中を追いかけながら三人は歩いていく。




