エルフの国 3
エルドの意識は過去の記憶から現在、馬車の中へと戻る。
気づけば街中から少し外れた所へ来ており、目の前には巨大な建物。そして、建物を守るように塀が立っており、その周辺をさらに杖を持って警備している魔術師たちがいた。
「……変わらないねぇ、この雰囲気は」
その言葉はアナトから出た言葉であった。
(変わらない?)
その言葉に強く引っかかりを覚えるエルド。
アナーヒターの口から出る言葉ならまだわかる。彼女の出身地だ。だが神都出身で、冒険者連合に所属しているアナトには縁もゆかりもないはず場所だ。
今回のようにもしかしたら、過去に来たことがあるのかもしれないが……。
また、アナーヒターもアナトの顔を心配そうに覗っていたが、アナトは全く何の問題も無さそうであった。
そうしているとさらに馬車は先に進み、塀の中に入るための門の前へとやってきていた。
「おい、止まれ!」
警備している二人の魔術師に止められると、馬車の運転をしていた者が許可証を見せる。それを一人の魔術師が確認しながら、もう一人が馬車の中を確認しにやってくる。
「お前たちが冒険者連合からやってきた使者か。事前に送られてきた資料通り、人数は合っているな。本人確認のため一応、名乗ってもらおうか」
魔術師は小さな魔法陣を自身の耳元に生成。どうやら嘘を見抜くような術のようだ。
それで三人はそれぞれ自分の名前を言っていく。
「問題はないようだな」
警備はそのまま馬車から出るのだが、その最中、ボソリとこんな事をつぶやく。
「ったく、上層部はよくこんな人間を中に招き入れようと思ったものだ」
本人は聞こえていなかったつもりなのか。それともわざと聞こえるようにいったのかは分からない。しかし、何事もなかったようにそのまま三人の前から消えていく。
「感じの悪い警備ですね」
エルドも事前には聞いていてはいたが、こんなにあからさまに人間を見下した言葉に態度を出すエルフが居るなんて……。
そうしてまさにドン引きというか、負の感情を抱いているエルドに対してアナーヒターが助言する。
「この国のエルフは誰だってあんな感じの印象だよ。メイガス・ユニオンの中でも気をつけろ。さすがに客人という立場だから拉致られるような事はないと思うが、変な因縁つけられるかもしれないんだからな」
敵地のど真ん中とは言え戦う気なんて一切なく、とりあえず黒いローブの集団について深くかかわってしまったゆえにこの任務を受けたというのに。
……緊張で吐いてしまうそうだ。
警備の確認が終わったのか、馬車はゆっくりと進み始め、塀の中へと入っていく。
どんなに吐きそうな状況でも、もう後戻りすることは出来ない。
アナーヒターとアナトの二人もエルドに比べればまだ柔い表情だが、それでも覚悟を決めた眼であった。それを見てエルドは深呼吸し、彼も覚悟を決めていくのであった。




