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エルフの国

 ゆらゆらと揺れている馬車の中、そこはアナト、エルド、アナーヒターにミトラの四人であった。


 「うわぁ、こんな光景、初めて見ます!」


 エルドが馬車から外の風景を覗く。


 そこは雪の降る街であった。道路は凍り、並ぶ建物の屋根には氷柱は伸びている。


 それでも人の行き来は激しく、曇り空に負けないほど窓から生活の光が街全体を照らしている。かなりの大都市のようだ。


 さらに道路が凍っているというのに馬車も通っている。それはこの街で使われている全ての馬車の車輪に魔術が施されており、滑らないようにされているからだ。


 そして、そこで生活している者たち全てが長い耳を持った、エルフであった。


 そう、ここは北の国で、メイガス・ユニオンの本部がある。セレシアである。


 「あまりジロジロ見るもんじゃないし、気をつけろ。ここのエルフは自分以外の種族を人以下だと思ってるんだから、目をつけられるとロクな目に遭わないからな」


 そう言って、アナーヒターはエルドの首元の襟を掴むと顔を引っ込ませる。


 「お前も一応、この街出身でしょ?お前もここにいる私たちを見下してるんじゃないのぉ?」


 アナトは冗談を言うような口調でアナーヒターに言う。


 「馬鹿野郎、だったら冒険者連合なんて組織に所属するわけないでしょ。私はこの国を出てもう三十年以上経つわ。エルフが特別秀でた種族ではないこと、世界は広いこと、いろんなことをこの身で体験してきた。もうそんな事、再教育されても一生思わないわよ」


 真面目な顔でアナーヒターは述べる。それに対し、まだ冗談口調で「だと良いんだけどね」なんて言うアナトであった。


 「しかし、大丈夫なんでしょうか?トーゼツとミトラの二人で潜入なんて」


 エルドは心配そうな声で言う。


 「大丈夫でしょ?それに、途中で私は合流することになっているし、アイツらも舐めたもんじゃないわよ。トーゼツとミトラの実力はエルドも知っているでしょ?」


 「そりゃあ、そうなんですが……」


 今回は戦いではない。潜入だ。


 どんなに強くても、今回は誰にも見つからず、バレてはいけないのが重要。


 そんな繊細で、困難を乗り越えることが出来るのだろうか。


 調和神アフラがトーゼツにそのような任務を言い渡したのだから、出来るのだろうけど。


 「やっぱり心配だなぁ」


 そもそも、どうしてこのような敵地のど真ん中と言える場所までやってきてしまったのか。エルドはそれを思い出し始めるのであった。

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