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出陣 2

 ミトラは話しかけてきたトーゼツを見る。


 月の光で明るく照らし出されたトーゼツの服には泥がついており、また顔にも引っかかれたような傷が出来ていた。手にも、包帯が巻かれていた。


 「私は夜風でもあたりながら、散歩していた所さ。そんな君は遅くまで魔物狩りかい?」


 「ああ、どんどん厄災による狂化現象が強まっている。国境の外に出ていた冒険者も数人、廃人となって発見されたりしている。もうすぐそこまで、厄災の脅威が来ているんだ」


 ミトラのように、その元凶と戦えるほどの実力はないかもしれない。だが、出来ることが全くないわけではない。彼なりに考えて、実行しているのだ。


 人を守るために……。


 「まだ、多くの人たちが街に残っているんだな」


 街の景色を見ながら、ミトラは話す。その言葉に、トーゼツは応える。


 「そりゃあ、逃げられない人だっているに決まっているだろ?ここから逃げられるのは、何かしらアテのある奴だけだ。一般人程度はどうしようもないからな。周囲の街や国には、厄災による難民受け入れをやっているけど、問題はその先。住む場所、仕事、そして金。この三つが揃わなければ、その後の生活は苦しくなるだろう?」


 トーゼツのいう通りである。


 仕事の数、雇用人数というのは大抵、どんな仕事でも決まっている。だからこそ、難民として逃げてきた奴らが優秀な者であれば、地元に住む人間の仕事が奪われてしまう。そうなれば、難民たちは今度は差別の対象となる可能性もある。


 そもそも、仕事が見つかるかも分からない。この世界には職というものがあっても、それが仕事になるとは限らない。そこはやはり、人との縁が重要になってくる。


 「それに家族を持つ人間だって多い。一人ならともかく、家族を養っていかないといけない奴らはもっと選択が難しくなるだろうな。俺の感覚で言えば、逃げたのは三割。準備をしているのが二割。残りの半分はこの街と共に消える覚悟だろう」


 ミトラも、馬鹿ではない。この地と共に死を覚悟する者は多いことは事前に分かっていた。だからこそ、その人々を守るために、助けるためにやってきたのだ。


 そう、そのはずなのだ……。


 しかし、今になってそのプレッシャーが彼女の心に侵食し始める。


 自分が死ねば、ここの者たちも全員死ぬ。もう、負けることは許されない。そして、この現実から目を逸らすことも、逃げることさえも……。


 「ねぇ、私は厄災に勝てると思う?」


 彼女は、なんとなくトーゼツに尋ねる。


 なんでそんな質問をするのか。


 誰かに『勝てる』と肯定されることで、自信を保ちたいからなのか。それとも『勝てるわけがない』と言われることで、自分が負けた時、しょうがないよね、と言い訳できるようにするためなのか。はたまた、ただ二人っきりのこの状況、話題が見つからないから適当に振ったものなのか。それは、彼女自身でもわからないことだった。


 「ミトラ自身はどう思うのか?」


 「……正直に言って、分からない。自分が負けるのも、勝つヴィジョンも見えない。本当に、自分の未来が暗闇のようで、それが…なんだか怖いのかもしれない」


 死ぬかもしれないなら、死ぬ覚悟で行く。勝てるのであれば、勝つ可能性へ少しでも向かうために努力をする。しかし、自分には、それすらも分からない。

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