尋問
神具保管庫侵入事件から数日後……。
ほとんどの一般市民から怪我人や死者と言った被害者は出ることはなかったが、一部の家屋が崩壊し、道路も馬車などでは通れないほど破損してしまっていた。
帰る場所をなくした者たちのために冒険者本部で仮居住区を設け、さらに崩壊した建物や公共物を調査し、すぐさま直していく。
だが、それよりも問題となったのは防壁の破壊であった。
神代の頃からあり、歴史的重要建築物として保護されていた防壁。落書きでさえも多額の罰金を支払わなければならないほどのモノを傷つけるどころか、ポットバックがぶっ壊してしまった。
多くの学者たちから非難を受け、また崩壊した際、瓦礫によって多くの建物がつぶされたことにより、一般市民からもたくさんの苦情、文句が来ていた。
冒険者本部としても何かしらの処分を下さなければならないと思っていたのだが──
「はははははははッ!さすがだ、やってくれるねぇポットバック!良いよ、今回に関しては私が元に戻しておいてあげるよ!」
ポットバックのやらかしを盛大に笑いながら、珍しく人間に手を貸す事を調和神アフラが約束したのだ。これにより、防壁と潰れた民家は一夜のうちに元に戻っていたのであった。
結構、危険人物として見られているポットバックは調和神アフラのお気に入りだったりもする。なにせ、彼女ですら予測できないほどの奇想天外な思考を持つからだ。
だが、その奇想天外な思考で周囲に迷惑をかけるのは止めて頂きたい所なのだが。
さて、このように街の復興が始まっている中──
「あぁ、俺はどうやっても情報は吐かねェぞ」
ドア一つ、窓はなく、何もない寂しい部屋。その部屋の中央には椅子に縛り付けられているアイギパーンの姿があった。
「おい、聞こえてんだろ?こんな日の光も当たんねぇ場所に一日中も居られるか。さっさと出して、独房か何かにでも入れてくれ。窓のついた独房にでもな!!」
自分の身がどのような状態に置かれているのか。それを本当に理解しているのか?と思うほどの言動と態度であった。
そうしていると、ガチャリ、とドアを開く音と共にパイプ椅子を持って入って来たのは昔から知っている仲であり、互いを知る者、べスであった。
「よぉ、昨日ぶりだな。尋問するために来てやったぜ」
彼は軽く挨拶しながらパイプ椅子をアイギパーンの目の前に広げ、そこに座る。
「ったく、俺を追い詰めた奴と挨拶する気にも成れねェなァ!」
「まぁ、そういうなよ。俺とお前は昔、傭兵時代には共に世界中、あちこちで戦ったんだ。そんな俺が尋問役として抜擢されるのも仕方ないだろ。俺だって、お前の相手なんてしたくはなかったさ」
そう言ってべスは懐からスキットルを取り出し、ぐびぐびとお酒を飲み始める。
「おいおい、目の前で呑むなよ。せめて俺にも一口くれ」
「ほらよ」
へスキットルの飲み口を拘束されているアイギパーンの口へと近づけ、飲ませてあげるべス。
「うーん、安酒だな」
「貰っておいて、ひどい顔してんな」
そうして尋問するために来たとは思えないほどの和んだ雰囲気に寂しい部屋が包まれる。




