メイガス・ユニオン 29
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!!」
ミトラは荒く呼吸をし、凄まじい量の汗を出しながらも、しかしその屋根の上を駆ける脚を止めずにエルフの少女を追いかけていた。
やはり、エルフの少女とスピード勝負になるとミトラに勝ち目は無いようだ。もう数百メートルも離されていく。また足止めのために配置していた冒険者たちは全く歯が立たない。拳銃とナイフを巧みに使い、蹂躙していく。
「はぁ、はぁ……!」
だが、諦めるわけにもいかない。
魔力を使って身体能力向上させるが、それも基礎となる肉体がどれほど鍛えられているかによって出せるパワーが変わっていく。
それでも無理に魔力で強化しようものなら、筋肉の繊維が千切れたり、体を支える部位である骨が耐えきれなくなり折れたりするなど負傷が出る。
「良し……出口は、もう…そこ!!」
そんなミトラの努力は空しく、もうエルフの少女が巨大な防壁の外につながる門までやってきていた。が、そんな門の前に立ちはだかる一つの影があった。
「よぉ、べスに応援として呼ばれたが……おめぇが侵入者ってやつか?」
そこにいた意外な人物にミトラもまた驚かされる。
ソイツはサングラスをかけ、アロハシャツを着ていた。また背中に刀を背負っている。そう、その姿は──
「ポットバック!?」
「おうよ、ミトラ。俺に任せておけ!!」
体内から一気に魔力を放出、身体を覆い、背負っている刀を鞘から抜き出し、刃にも魔力を纏わせながら戦闘の構えを取る。
しかし、エルフの少女は立ち止まることなく、余裕の表情で走り続ける。
「残念…だけど、あなたじゃあ……私に、かなわない!!」
彼女は拳銃を腰のホルダーから勢いよく取り出し、三発連続。ポットバックに向けて撃つ。
少女の魔力によって弾丸は遠隔操作され、惑わすような不可思議な動きをしながらポットバックへと接近していく。刃でこの弾丸に対応するのは至難の業だ。しかし──
「おらぁぁぁ!!!」
なんとポットバックは弾丸を見事斬って見せるのであった。
「なッ!!」
少女もまた驚愕する。
「舐めンじゃねェェェぞォォォォ!!」
それは技術や経験ではない。また才能でもない。それは勘と感覚。眼で捉えきれない弾丸をポットバックは体に備わった、まさに本能によって奇跡のような事を起こして見せたのだ。
それに対し、まだ諦めずにエルフの少女は引き金を引く。のだが、カチッ!という音しか響かない。どうやら弾丸を撃ち切ったらしい。排莢し、リロードするような時間もないため、無理やり押し切る形で少女は門へと駆けていく。それにポットバックは容赦なく刀を構えなおし、少女を斬ろうとするのだが
「あれェ?」
気づけばポットバックの首から勢いよく血が噴き出していた。
「残念…でした」
エルフの少女は刃に付着した血を素早く振って払うと懐へと戻す。




