メイガス・ユニオン 26
「まだこんな所にいたのか?」
思案していたアイギパーンとエルフの少女の目の前に一人の影が現れる。しかし、聞いた事のある声であったゆえに二人は警戒することはなかった。
「そういうお前もまだ脱出していなかったのか、ルーフェイ」
アイギパーンからそのように呼ばれた影はスーツを着た男であり、大事そうにトランクを持っていた。
「まぁな、少しばかり戦いになっちまってな。でもなんとか逃げ切った。そしたら、知っている気配を感じたから立ち寄ったんだ。かなり警備レベルが上がっているが、二人は逃げ切れそうか?」
「それを今、考えていた所──」
その時、アイギパーンの中で閃くものがあった。
そうだ、俺たちの本来の目的は神代の遺物の奪取。そして相手はそれを防ぐことが目標のはずだ。そして神代の遺物を持っているのはルーフェイだ。アイギパーンとエルフの少女の二人を捕縛するのは二の次。
「これなら……相手の意識を逸らせるか」
何かしら策を思いついたアイギパーンはルーフェイに一つの頼み事をする。
「出てくるとしたらここだろうな」
べス達は神都の詳細な部分まで描かれた地図を眺めながら待機していた。
どんなに入り組んでいる路地裏とは言え、出られる場所が限られている。さらにここは大通りに繋がっており、まっすぐ進めば外壁の門に着く。
脱出の事を考えて出るならここだ。もしも再び屋根に登って建物から建物へ逃げようとしても問題はない。既に一部の者たちを登らせている。
「さぁ、どう来るよ。アイギパーン!!」
その時だった。
路地裏の奥からいくつもの銃声と火花が散り、待機していた数人の冒険者を撃ち抜く。そしてヒュンッ!と飛び出す二つの影があった。
それらは上手く冒険者たちの警戒網を潜り抜けていくと二手に分かれていく。一つは軽快な動きで建物の壁を蹴り上げ屋根の上に。もう一つの影はそのまま大通りを真っすぐに駆けていく。
「来たぞ、ミトラ!」
べスは大通りを駆け抜けている影の方を追いながら手に握りしめていた一枚の木の札に向かって叫ぶ。
「分かってますよ!」
同じく木の札を持つミトラは屋根の上から軽快な動きで移動する影を追いかけ始める。どうやら大通りはアイギパーンで屋根へと移動しているのがエルフの少女のようだ。
べス達は事前に逃げるルートを予期し、何人もの冒険者を配置していたが、やはり本部所属と言えども有象無象。剣聖に互角に戦えてしまう二人を相手に歯が全く立たなかった。
「くッ、速いな!」
やはり、スピード勝負になるとミトラに勝ち目はないようだ。あっという間に距離を取られてしまう。
それに対し、べスの身体能力はアイギパーンを凌駕しているようであっという間に追いついてしまう。




