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メイガス・ユニオン 23

 脳震盪が収まっていき、ようやくエルドの意識が回復していく中で増していくのは痛みであった。先ほどまで何が起こっているのかさえ理解出来なかった脳が、体中に出来た傷を理解し始める。


 痛い。


 ……痛い。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!


 指一本でも動かそうとするたびに血が流れだす。


 このまま自分は死ぬのだろうか?


 死んだ所で術聖エイルの治癒魔術があれば蘇らせてもらえるだろう。


 だが、それで良いのだろうか?


 確かに痛い。


 無理やり体を動かした所で出血多量ですぐに死ぬ。


 だが、諦めても良いのだろうか。


 「まだ……」


 体に力は入らない。


 だが、心が……エルドの精神がそれを許さない。


 「まだ…なんだ……!」


 この程度の相手で立ち止まってどうする!


 トーゼツのように……諦めずに進むあの冒険者のように……!


 俺も行かなければ!誰からも縛られず、自分の限界打ち破って自由に!!!



 「さて、能力もフルパワーで使えるようになったし、さっさと荷物を持って逃げるとするかね」


 襟を正し、落ちていたトランクを拾うと全身に魔力を纏わせて能力を使い瞬間移動しようとする。


 その瞬間


 「待て」


 ゆらり、と後方から立ち上がる影があった。


 「ッ!?」


 スーツの男はその異様な気配に()てられ、急いで振り向く。


 それは明らかに先ほどまでの未熟で弱い少年ではない。


 背筋が凍るような恐怖がそこにはあった。


 「なん、……だ…」


 まさに蛇に睨まれた蛙のように動けなかった。『パンタレイ』を使えばその場から離脱出来るというのに、能力発動しようとも思えなかった。


 「どうした、逃げないのか?」


 その言葉でハッと我に帰るスーツの男。


 「はっ、はははッ!任務に直接関係ないとは言え、一度手を出した相手はキチンと俺の手で始末しておかねえとな!」


 震えた笑い声に、恐怖する自分に言い聞かせ、心を鼓舞させるかのような軽口を叩く。


 「そうか」


 それは一瞬だった。


 気づけば、スーツの男は首を掴まれていた。


 「なッ、か、…かハッ!」


 グググ、と右手の腕力だけで締め付けながら持ち上げる。


 (こ、この程度……『パンタレイ』さえ…使え…ば……)


 何故だ!?


 どうして固有技能が発動しない!?


 「このまま残った左手でお前をサンドバッグのようにしても良いんだぞ?」


 その表情に感情はなく、淡々としていた。


 (この力は…魔術……ではない!固有技能に似た…これは…何だ!!?)


 この魔術師の少年に何が起こったのか、スーツの男には全く以て分からない。

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