メイガス・ユニオン 22
スーツの男の足首にはまだ光の触手がガッチリ捕まえている。これでは逃げる事は簡単ではない。真正面から戦闘し、このエルドという魔術師を倒さないといけないだろう。
あまり戦いは好きではない。しかし──
「確かに、術聖に成れるほどの技術だな。固有技能無効化の魔術だなんて初めて見る。だけど……今のお前じゃあ俺を倒せない」
戦いは得意な方だ。
スーツの男は走り出す、エルドに向かって真っすぐ近づいていく。
瞬間移動など戦闘向きの能力ではない。この状況を解決するのであれば、他にも手段があったはずだ。なのに自分から戦闘を選んで、しかも真正面からの接近に驚くエルドだった。が、すぐさま目の前に魔法陣を展開し、詠唱を始める。
「上級魔術〈チェーン・シュート〉!」
ジャラジャラッ!と鉄同士がぶつかる音と共に複数の鎖が出現し、スーツの男にめがけてそれらは一斉に放たれる。
だが、やはり光の触手同様、スーツの男に達する前にあっという間に消滅していく。
「そんなモノ意味ないってのを学ばない奴だな!!」
スーツの男は拳に魔力を乗せるとエルドの顎に向けてプロボクサー顔負けの鋭いアッパーカットを見せつける。
それを避けることも出来ず、エルドは喰らってしまう。頭が大きく揺れ、脳が震える。それは視界をぼやけさせ、意識をも崩壊させる。いわゆる、脳震盪というモノだ。
「あ、ぁ?」
脳震盪の影響で、今何が起こっているのか?自分はなんでこんな所にいるのか?生きているのか、死んでいるのかさえも理解できなかった。
「やはり、戦いはつまらないものだな」
そこからは三十秒にも満たなかった。
その両手、両足を以てエルドを追い詰めていく。
体が言うことを聞かない……いや、思考すらも出来ない彼には魔術を行使する事も出来ない。
冷静に考えればエルドが勝利する道は確実にあった。
第一次範囲能力を無効化するために足首を掴んでいる触手を操作し、何度も地面に叩きつけるなり、上空へと打ち上げるなりすれば良かった。のに、急接近するスーツの男を目の前に対処しなければ!という思考になってしまった。
やはり、人は突如として思考し、選択しなければならない事態になると正しい判断が難しくなってしまう。それこそ、スーツの男が接近するまでという短い時間ではなおさらだ。
エルドの顔は腫れ上がり、服に滲み出る血。服で見えないがきっと痣だらけなのだろう。地面には折れた歯が三本ほど落ちている。
まだ、かろうじてその足で立っているが、もうふらふらだ。
「良かったな、俺にボコされて一分近くは耐えているぞ。ははっ、サンドバッグには丁度良いな!」
拳を強く引き、トドメだと言わんばかりに一気に溜めた力をエルドに向けて発散させる。
「ッァ!!」
エルドの体にゴキッ!と嫌な音が響く。一部の内臓が壊れる感触もあった。
エルドはバタリ、と倒れてしまう。




