メイガス・ユニオン 21
アイギパーンとエルフの少女、二人の逃走戦の最中──
「っし、ここまでは問題なく行けたな」
スーツの男はトランクケースを持ち、固有技能である『パンタレイ』を使って飛び回っていた。
「さて、あの三人がどうなったのか気になるが目的の物さえ持ち運び出せば依頼は完了。このまま逃げさせてもらうかな!!」
そうして次のポイントまで一気に飛ぼうとしたその瞬間、しゅるり!という音と共にスーツの男の右足首に何かが巻き付かれる。
「?」
一体、何だろう?そのように思っていたその時……
「おわッ!?」
右足首が強く引っ張られ、態勢を崩すとそのまま近くの建物の壁に思いっきり叩きつけられる。壁はその衝撃に耐えきれずにガラガラと崩れ落ちる。
「アフラ様からの緊急要請で駆けつけたんだけど……アナタが侵入者ってことでオッケー?」
現れたのは一人の少年。彼の足元には魔法陣が展開されており、そこからはいくつかの触手の光が触手のように伸びていた。そしてそのうちの一本がスーツの男の足首をがっちり掴んでいるのであった。
だがそれよりも気になるのは──
(俺の固有技能が無効化されている?)
このような修羅場に危険地帯に任務で訪れたことは何度もある。そして、何度も自分は捕まりもした。しかし、どんなにキツく紐で縛っても、どんなに重い錘をつけられても固有技能を使って脱出してきた。
しかし、この光の触手の力なのか。力強く離さないうえに能力を無効化している。
(いいや、完全な無効化じゃない。コレには穴があるな)
そう思い、彼は近くにあった瓦礫の破片を気づかれないように握りしめる。そして瓦礫に力を向けた瞬間、それは消える。
やっぱりだ。これならまだなんとかいく。
「さて、それよりもこれほどの拘束魔術……そこらへんにいる魔術師とは一線を画しているね。事前にメイガス・ユニオンに聞いた情報にはない奴だ。君は何者だい?」
「俺の名前はエルドだ。新たな術聖見習いだ!」
エルドは魔法陣からさらにいくつもの光の触手を出していく。
(少し前から観察させてもらっていたが、相手は固有技能持ち主!能力の詳細までは分からないけど完全に移動特化の能力!だったら完全に動きを封じれば!!)
そのように考えていたエルドだったが、しかし──
「この程度なら問題ない!」
スーツの男に近づいた瞬間、光の触手は先の方から掻き消えていく。
「なッ──」
エルドは驚き、狼狽えるがすぐさま新たな触手で捕縛を試みる。しかし、何度もやっても結果は同じ。それは触れる前に消滅する。
「お前のその拘束魔術……かなり高等な技術だが、まだ不完全だな。二次範囲の能力無効化が出来ていない」
スーツの男の能力に限らず、魔術や固有技能には一次範囲と二次範囲で区別することがある。今回の例で挙げるならば、『自分自身』を瞬間移動させることを一次範囲、他者や触れた物を飛ばすと言った能力の影響を受けた『他の物質』を二次範囲と区別できる。
一次範囲である『自分自身』の能力を阻止しているが、触れているモノや接近してきているモノには能力行使が出来ている。




