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メイガス・ユニオン 20

 ミトラはエルフの少女に意識が向きすぎていたのだ。だからこそ、後ろからやってきていた男に気づくことなく、喉を撃たれてしまったのだ。


 これではミトラは術を唱えることは出来ない。それどころか、脳が混乱を起こしているせいで体すら動かすことが困難であった。


 発動中であった上級魔術〈陽纏ようてん〉」もまた停止し、剣にまとわりついていた炎が掻き消えていく。


 なんとか深呼吸して落ち着こうにも、肺に酸素を送るたびに血も混じり、ゴホッ!とせき込む。それでせっかく肺に入れた酸素も吐き出されてしまう。


 混乱している脳には酸素が必要だ。しかし、その酸素すら供給出来ない。


 ミトラはその場に倒れこみ、苦しんでいた。


 「ミトラ、お前何してんだ!油断しすぎだ、馬鹿がッ!!」


 そういってライフルを持った男を追いかけながらやって来たのはべスであった。


 「自分で治療できるか?……って唱えることも出来ないもんな、クソッ!」


 下級、中級レベルの術であればミトラも無詠唱で使える。しかし、この傷口に出血量はそのレベルの術では回復しきれない。


 「上級魔術〈ハイ・ヒール〉」


 べスは魔法陣なし、詠唱だけでその術を発動させるとたちまちミトラの喉は治っていき、失った血液もすぐさま補いように体が生成を始める。


 「これだから職を上位に移行させるのは嫌なんだよ。剣聖になればより剣術特化の戦士になっちまう。とくにテメェは多職じゃ無ェんだから面倒なんだよ。まっ、説教はあとだな。今は追うぞ」


 「……はい、先生!!」


 治療を終え、二人はすぐさまアイギパーンとエルフの少女の二人を追いつこうと走り始める。


 「おいおい、先生って……さっきガキの相手とか言ってたが剣聖ミトラかよ。しかしアイツが先生ねぇ。誰かにモノ教える事あるんだな」


 二人の会話が聞こえていたのか、ぽつりとアイギパーンが呟く。


 「テメェも弟子取ってるじゃねぇかよ。それが信じられんな!!」


 べスもアイギパーンの言葉を聞いていたようだ、馬鹿にするかのような嗤いを飛ばす。


 「先生、もしかして知り合い?」


 二人の会話からべスとアイギパーンが知り合いであると悟ったミトラは尋ねる。


 先生の知り合いとは言え、今は任務。恩であったり、情があったとしても──


 「気にすんな、腐れ縁ってやつだ。ぶっ殺して構わん」


 「了解!」


 べスの迷いのない判断にミトラは強い信頼を持って剣に魔力を送る。


 「ったく、昔からの知り合いだっていうのに容赦無ぇな!見逃してくれたって構わないんだぜ?」


 そう言いながらアイギパーンはトリガーを引いては二人にめがけて何度も弾丸を発射する。


 拳銃とは違う速さと威力にミトラは戸惑いながらも、べスが構わず駆けていくのに合わせて怯むことなくミトラもまた全力で走っていく。

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