メイガス・ユニオン 17
アナトは鼻血を腕で拭い拭き取ると、再び魔法陣を展開し、槍に魔力を送る。
「痛ってェな。だがさすがだな、無詠唱であれほどの──」
男は刀を地面に突き刺し、杖のように体を支えながら立ち上がる。だが、目の前で何か術を発動させようとしているアナトの姿を見るとすぐさま動き出す。
(まぁ、そう来るよな)
ここで逃げる、避ける、受け止めるの選択肢を取らず術発動を阻止しようと近づいてくるとは。ただの馬鹿かと思っていたがあのゼロ距離戦闘、やはり意識して行っていたのか。
いいや、もしかしたら意識していないかもしれない。
世の中には一定数いるのだ。本能、センス、感性……生まれ持った部分で理解し、適切な答えを導き出して行動出来る者が……。
だが、その才能を原石のままで磨かないことをしない者はただの愚か者だ。
だから、術発動を阻止という選択肢しかなくなる。
(もっと強くなろうって向上心があれば、この一撃を正面から受け止められるほど強くなってただろうにな……)
アナトは愚者を見下すような目つきで、詠唱を開始する。
「絶大槍術〈ペネトレイト・ハスタ〉」
まるで砲台から発射された砲弾のようにその槍は魔法陣を潜って射出される。その一撃はあっという間に男の胴体を貫き、大きな穴を開ける。
皮膚も、肉も、内臓も骨もなくなっている。背中の景色が見えるほど、綺麗な穴だ。
その槍は男を貫いてなお、威力を失うことはなく、後方にあった建物全てをも貫いていく。
「……」
男は何が起こったのかも知覚出来ていなかった。さらにこれほどまで致命的な傷を脳は理解できないようだ。痛みも一切、感じなかった。
ただ、理解できるのは──
「さす、がだ。神代の終ま…つ……」
口端から血を流しながら、その男は満足そうな顔で倒れていく。
「最後まで良い顔してるな、さすが変態」
アナトはその死体の表情をちらりと覗く。
「エルドに蘇生してもらわないとな。あとはいくつか建物壊しちゃったし、あとで調和神アフラに反省文という名のレポートも書かされそうだ。あと侵入者もまだいるから助けに行かなくちゃいけないし……やることいっぱいだな。まぁ、とりあえず──」
男の死体を通り過ぎ、アナトは自分の術で作った建物の穴を潜っていく。
「槍を拾いに行かないとな」
そういって、アナトはめんどくさそうに歩いていくのであった。




