メイガス・ユニオン 16
場面はアナトと和洋折衷の服装をした刀の男との戦いへと変わる。
二人はゼロ距離という言葉が相応しいほどの激しい近距離戦闘を行っていた。
「きぃえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
けたたましい雄たけびと共に刀を強く振っていく男に対しアナトは冷静に槍ではじいて捌いていく。戦神とも呼ばれている彼女にはまさに隙が見当たらない。だが、男はそれでもその腕を止めることなく斬りつけていく。この状況、他者が見ればこう思うだろう。男は必至に攻撃しているが、軽くアナトにあしらわれているだけである、と。
しかし、アナトの思考は逆であった。
少しばかりの焦りと、この男の強さを体感していた。
(ちぃッ!コイツ!!頭おかしいくせに、適切な動きをしてきやがる!)
槍聖、弓聖、術聖……この三つの職を持っていることがアナトが戦神と呼ばれる所以だ。しかし、このゼロ距離戦闘において弓聖の仕事はない。術聖も肉体強化であったり、治療魔術は使えるのだが半分以上の術は意味を成さない。より分かりやすく例を挙げるなら爆破系の術を使おうものなら発動させる自分でさえ巻き込んで使うことになる。爆破系じゃなくても、炎、氷、風を生み出すものであっても自分を巻き込みかねない。
だが、半端な術であればこの男にダメージを入れることも出来ないだろう。
ここはなんとかして距離を取って態勢を整えたい所だが──
「はっはっはァァァ!戦神アナトがこの俺に後退するのか!?」
バックステップで下がろうとしているアナトを抑え込むかのように避けられないほどの素早く、強い一撃を放つ。
「ちぃッ!」
槍で真正面から受け止めたアナトはその衝撃になんなく耐え、逆に振り下ろされたその剣ごと男を押し上げる。
「なんという膂力!さすがだッ!」
ブゥン!ブゥン!と空気を裂く音と共に刀を振り回す。
剣というのは力で押して斬るが、刀は違う。引いて斬る武器である。だが、この男の動きは明らかに押し斬ろうとしている馬鹿げた動きだ。
だが、このように考え無しで来る馬鹿の方が動きは読みづらく、かなり怖い。
(こうなったら──!)
槍で刀をはじきながらアナトは魔法陣を展開する。
「ッ!」
男は何か来ると察知したものの、動きを止めない。このまま力づくでアナトを押し切って倒すつもりなのかもしれない。
しかし、術の発動の方が早かったようだ。
アナトと男の間に壁型のバリアが出現。
「防御系の術か、この程度……!」
ガキッ!と音が響く。
それは刀がバリアに突き刺さる音であった。
「馬鹿が、絶大魔術の防御バリアを魔力だけの刃で貫通出来るかっての!」
そしてアナトは男ごと壁を押し出し、男を吹っ飛ばす。
無詠唱で、杖無しの絶大レベルの術発動。術聖でなければやってのけれない事だろう。だが、やはりかなり脳に負荷がかかったようだ。たらり、と鼻から赤く、熱いものが流れ出る。




