メイガス・ユニオン 12
その頃、一方……。
調和神アフラのいる研磨された黒曜石のような長方形の城の周辺ではべスがミトラの率いていた冒険者たちから情報を聞き取っていた。
「以上が報告となります!」
「そうか……じゃあこの辺りを巡回しておいてくれ。絶対、ここにも何かが来るだろうからな。あと俺の周りには近づくな。ほかの奴にもそう伝えておいてくれ」
「了解しました」
そうして、一通り話を聞いたべスは代表して情報報告してくれた冒険者を立ち去らせるのであった。
「ちッ、アナトもミトラも足止めされてるな」
聞いている限り、相手は四人。アナト、ミトラがそのうち二人を相手していると考えて残りは二人。きっとこの二人を目的地である神具保管庫へ向かわせるためにアナト、ミトラを足止めしている状態と考えれば……。
(残り二人を俺一人が足止めしないといけなくなるのか?だが、あのアナトが簡単に足止めを喰らっているとは考えられない。もしかしたらアナト対二人の構図になっている場合も?というかそれよりも──)
なぜ、四人という人数なのだろうが。
バレない様に、ひっそりと神具保管庫に侵入するのであれば単独潜入の方がやりやすいだろう。戦いを想定するのであれば分隊レベルの規模でも良かったはず。
なのにも関わらず四人。それではまるでアナト、ミトラ、べスの三人を足止めして残った一人を侵入させるという作戦を立てていたかのような状況だ。
(もしもそうなら、事前にこちらの防衛計画が漏れていた可能性がある)
いいや、これも早計か。
四人確認出来ているだけで、伏兵がいる可能性も充分にあるじゃないか。
べスは冷静に状況を分析し終えると、とりあえず懐に入れていたタバコを取り出して吸い始める。
「さて、やはり来たか」
ゆっくり歩いてべスの目の前に現れたのは一人の男。単発のレバーアクション式ライフルを持ちカウボーイハットを被った中年の男であった。
きっと自分も刺客と激しい戦いになると想定したからこそ、有象無象の冒険者全員を巡回させたうえに近寄るなと命令したのだ。
しかし、相手が知り合いだったのはさすがにべスも想定していなかった。
「久しぶりだな、べス」
その男は昔を懐かしむような表情で、それでいて旧友に会ったように気軽くにべスに話しかける。
「侵入者の中にお前も居たのかよ」
口で転がしていた煙をふぅー、と吐き捨てながら男を見る。
「本当に久しぶりだな、アイギパーン。いつからメイガス・ユニオンに入ってるんだ?あんな組織、ロクでもない奴らが集まって出来た組織だろ?」
「言われなくても分かってるよ。俺はただ雇われただけだ」
「まだ雇われ傭兵やってるのか」
「’俺は戦いの中でしか生きていけないからな。冒険者なんかも性に合わねぇしよ。それよりもお前が冒険者ギルドに所属してるのが意外でしょうがないんだが?」
「調和神様に目をつけられてたんだよ。俺も入るつもりはなかったが、アフラの言う通りにしないと処刑されちまうってハナシでな」
「ははっ、可哀想にな。さて」
べスからアイギパーンと呼ばれた男はライフルを構える。
「おっと、もうお話は充分か?一緒にタバコ吸って昔話でも?」
「いいや、充分だ」
「そうか……、だったら俺も容赦はしねぇぞ」
べスはタバコを咥えたまま剣を構え、戦闘態勢に入る。




