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メイガス・ユニオン 9

 ミトラが本気を出した所で少女もまた拳銃を取り出した。であれば──


 (やっぱり、彼女の戦闘スタイルはナイフによる接近戦じゃないな。拳銃とナイフを巧みに合わせた、近距離兼中距離戦闘スタイルか)


 剣聖ミトラにとっては厄介この上ない。


 魔術師や弓士のように遠距離戦闘スタイルの者は距離さえ詰めれば倒しきれる。剣やナイフと言った近距離戦闘スタイルであれば、単純に技術、力量で勝れば良い。こちらも伊達に剣聖をやっていないのだから。


 だが、中距離と近距離という大きい距離幅。技術や単なる力量はともかく手札の多さ、攻撃の対処に反撃方法などは相手の方が勝っている。


 (距離を取れば拳銃で攻撃され、距離を詰めれたとしてもナイフで反撃か。しかもあのスピードだ。詰められた距離も簡単に離していくだろうな)


 だからこそ、最初から本気で行く。


 魔力で空中に線を描き、ミトラの剣身を中心に二つの魔法陣が展開される。


 「上級剣術〈陽纏ようてん〉」


 唱え終わると魔法陣は消えるがその瞬間にボォッ!と周囲が赤く燃え広がったと思えば、いつのまにか剣身が炎へと変わっていた。


 まさに太陽の如き、煌めきと熱量である。


 この術はトーゼツの使っていた中級魔術〈炎纏えんてん〉の剣術バージョン。しかも上位の術でもある。


 「それじゃあ、行くよ。上級剣術」


 ミトラは大きく剣を振り上げると今度は振り下ろす構えを取る。


 「まずい、な!!」


 少女は咄嗟に脚に力を入れ、飛び上がる。


 「〈マジック・ラディエイション〉!」


 ぶわり、と剣の炎は舞い上がり、まるで火炎放射の如く放射していく。その威力は先ほどまで少女が屋根の上に立っていた家屋が熱風によって吹き飛び、壁や床が溶けていくほどだ。


 この剣術は本来であれば剣先から魔力をまるでレーザーのように放出させるだけの剣術。しかし、今彼女の剣身は炎と化している。ゆえに、今回は魔力に乗って炎も放出されたというわけである。しかも、その効果範囲も広く、隣接していた建物もパチパチと燃えている。


 上級魔術と上級剣術の重ね技。その威力は絶大レベルにも匹敵している。のにも関わらず、ミトラの消費した魔力量は大したものではない。脳への負担も大して掛かっていないようだ。


 「マジ…です、か!?」


 エルフの少女は改めて剣聖の実力、その一端を目にして驚いていた。


 だが、この事実に一番焦っていたのは以外にも術を使った本人であるミトラであった。


 「やべっ!建物壊しちゃった!どうしよう、あとで絶対怒られるやつじゃん!」


 「……この状況で…そん、な事を…考えるのか」


 今は殺し合いの真っ最中。


 なのにも、ミトラの意識は自分ではなく壊した建物へと向いている。


 それほどまでに心に余裕があるということなのか。


 本当に舐められたものだ。


 エルフの少女は悔しさもありながら、この剣聖ミトラ・アルファインを捻じ伏せてやると覚悟を決めるのであった。

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