メイガス・ユニオン 8
トーゼツ達は誰が相手でも、何があってもミトラが勝てる、どうにかなると信じていた。
だが、それとは裏腹にアナトは苦戦を強いられていた。
「ちぃッ!すばしっこい!」
ミトラは剣をまるで木の棒のように軽く、そして凄まじい速度で振り回す。しかし、その速度さえも超えて動く一つの影。
その小柄な影は剣聖であるミトラの剣捌きでさえ見切り、その凄まじい連撃の合間に刃物で頬に小さいとは言え切り傷を入れて見せる。
「ッ!」
ミトラはまさか避けていくだけではなく、反撃も入れてくるとは予想していなかったようで態勢を崩してしまう。その小柄な影は追撃しようとした所で──
「させるかァ!」
ミトラ同様、街中巡回を任された冒険者の一人が鎖を打ち放ち、小柄の影の足首に巻き付け、ミトラでさえ捉えきれなかった素早い動きを止めさせる。
そこに居たのはエルフの少女。ハンチング帽を被り、右手にはナイフがあった。これがミトラを傷つけた刃物なのだろう。そして腰のホルダーにはリボルバー式拳銃があった。
「おっらぁぁぁ!」
冒険者はそこから鎖をまるで自分の体の一部かのように自由自在に操作し、捕まえたエルフの少女を上空へと高く舞い上がらせる。
「このまま地面にたたきつけてやる!」
その冒険者はそのまま鎖を操作している腕に力を入れる。
だが、叩き落される前にエルフの少女はナイフを鎖を操る冒険者に目掛けて投擲する。そして、その魔力を纏った鋭いナイフは適格に頭へと直撃する。
そしてもう一本、懐に入れていた予備用のナイフを取り出すと鎖を切断し、束縛から脱出する。
(冷静な判断に、適切な状況処理、さらにその動きの速さ……)
ミトラは明らかに力量は四大聖レベルの実力者を見て驚くばかりであった。
しかし世界中を任務で飛び回っているミトラであれば、これほどの強者の存在を見聞きしていてもおかしくないはずだ。だが、強いエルフの少女だなんて、聞いたこともない。
(一体、何者なんだ……?)
考えられるとしたら、表社会には一切出ることの出来ないほどの深いアンダーグラウンドの住人の可能性ぐらいだ。
そんなエルフの少女は先ほどまで鎖で態勢を崩されていたのにも関わらず、簡単に態勢を整え、付近の建物の屋根にしっかり足から着地する。
「……なん、だ。冒険者の…本部の連中だと、聞いてた。のに、……この程度なのか」
その途切れ途切れの独特な言葉遣いで少女は屋根上からミトラたちを見下していた。
「あの少女……もう分かっているとは思うけど只者じゃない。君たち、ここは私に任せておけ。そこの死んだ奴をエイルの元まで運んで、残りの者は住民の避難だ」
確かに、ここに居てもミトラの足手まといになるだろう。であれば、ここに残るのは逆に彼女の足かせとなってしまうだろう。
そのように悟った冒険者全員は「了解!」と返事をし、消えていく。
「さて、そろそろ本気でいくとしようかな」
ミトラは体内から一気に魔力を放出し、剣へとその魔力を纏わせる。
「良い、ね。厄災討伐者の……真の、実力、を……見れるのか」
エルフの少女は嬉しそうに右手でホルダーから拳銃を抜き、ナイフを左手で構える。




