特異課 13
ここでトーゼツが槍へと武器を変更したのにはもちろん、理由がある。
何度もこの戦いで説明しているが、双剣では距離を取る必要がある。しかも、双剣は素早く動くために通常の剣に比べて小さく、短い。一、二メートルという狭い範囲内まで近づかないと当たらないだろう。
それでもトーゼツがこの双剣を使って近距離戦へと挑んだのはこの双剣には炎と氷の魔術が組み込まれているからだ。しかし、それを使ってバレてしまった。
炎の魔術しか発動させていなかったが、もう片方の剣にも何かしらの術が組み込まれているのは気づいているだろうし、炎を使ってもべスにはダメージを与えられなかった。その時点で双剣を使うメリットがもうなくなってしまった。
それに対し、槍は剣よりも長いから距離を取りやすい。また貫通力も剣よりあるだろう。しかも、この槍も神代の遺物であり、上級レベルの術が組み込まれているうえ、魔力を生成する機能まである。
「あれも神代の遺物かかよ……!」
べスもすぐさまその事を見抜いてみせる。まぁ、さすがに武器が魔力を生成するという本来ありえない事態を見逃すはずがない。
「すごいですわね。これまでトーゼツから出てきた武器は全部、神代の遺物ですわよ!」
エイルも神代の遺物を見るのは初めてじゃないが、三つ以上も個人が所有している事にとても驚きである。
トーゼツはこれで迂闊には近寄れまいと判断する。べスからすれば同じように炎を吹き出すのか、それとも全てを凍らせるほどの冷気でも出るのか。はたまた予想もつかない術なのか。槍にどんな術が組み込まれているか分からないからだ。
しかし──
「はははははァ!」
べスは楽しそうに笑いながら問答無用で接近し、
(は?)
トーゼツの胴体に深い一撃を与えていた。
皮膚を斬り、肉を裂き、内臓が飛び出そうになる。痛みで意識がなくなり、思考出来なくなる。が、すぐさまに傷口が修復し、意識が強制的に戻ってくる。
「うおッ!」
一体、自分の身に何が起こったのか。意識が先ほどまでなくて、記憶の混濁が起こっているトーゼツには理解出来なかった。
「まじかよ、死が確定した瞬間に復活か!だったらこれは──」
トーゼツが体を動かす前には、ベスの刃はトーゼツの首を切断していた。
だが、その首も離れきってしまう前に骨がつながり、血管が接続され、肉を生成。皮膚は何事もなかったかのように再生していた。
「おワァ!」
より一層、消えたり戻ったりする意識に混乱を覚えながら、トーゼツはこの試合の事も忘れてとにかく力を込めて剣を振り回す。
だが、それは無駄な抵抗であり、何の動きにもなっていない。まるで子供が一心不乱に振り回しているような……素人の動きでしかなかった。
そんな動きにベスは簡単に掻い潜って容赦無く心臓を貫く。




