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特異課 12

 べスは思考は一瞬、止まる。


 トーゼツは死んでいた。そのはずだ。呼吸は止まっていたし、意識も無くなっていた。


 回復魔術……?いいや、詠唱もしていなかったし、魔法陣の展開も無かった。これほどの負傷を全快に近い形で治療する魔術を無詠唱、無魔法陣でやり遂げたとも考えきれない。


 「おいおい、何が起こってるんだ!?」


 ポットバックは訳が分からず、混乱している。


 「これは……もしや…!」


 真っ先に何が起こったのか、ポットバックの隣で一緒に見ていたエイルの方が先に気づく。


 そして、それに遅れてべスがようやく理解する。


 「固有技能スキル持ちか!?」


 それしか考えられない。


 特異課は前に説明した通り、固有技能持ちの冒険者が多く所属する課だ。そしてべスはその課の代表であり、管理を任されている課長である。死後に発動するモノが過去の資料、文献を読んで存在しているのは知っていた。だが──


 「死後に復活する能力?そんなもの聞いたことないし、魔術学の根底が覆されない事例だぞ!?」


 魔力は魂から生成される、これが魔術の基本だ。もちろん、死亡直後であれば肉体に魔力が残存している事が多い。その残存した魔力で固有技能が発動する場合は知っている。


 しかし、残存魔力で魂を生成……そんな事起こるはずがない。


 現代の魔術でさえ魂の創造もとい再現は不可能だ。神代の遺物(アーティファクト)には魔力を生成する武具、道具が多々あるがそれらの構造も魂が道具に付与されているのか。もしくは永久機関のように無から魔力を生み出しているのか。現代魔術学では説明不可能の代物だ。


 魂の再創造だったとしても魔力は所詮、魂からの副産物に過ぎず魔力だけで再創造するなんて不可能のはず。


 (死亡直後であれば魔力が残存するように魂も残存するのか!?それとも俺の魔術学の知識が無いだけなのか?)


 不可解なのはそれだけじゃない。


 消費した魔力量も戻ってきている。いいや、違う。元々の魔力量よりも増えている。


 (等価交換の法則も無視してやがるのか!?ちくしょう!!)


 べスは困惑している。


 これは本当の殺し合いではあるが、人生の終わる戦いではない。トーゼツの力を測るお遊びのようなものであり、死んでもエイルに蘇らせてもらえる戦いだ。


 だが、痛いものは痛いし、死ぬのは嫌である。


 そんな戦いの中、べスは……


 「もっと遊べるっていうのかよ!!」


 笑っていた。


 「おいおい、そろそろやべェんじゃなェか!!」


 ポットバックの顔に恐怖が出始める。


 「確かにね。巻き込まれるかもしれませんし、もう少し離れておくとしますわ」


 エイルとポットバックはそうしてより一層、壁際まで離れた上で、さらに魔術で防御シールドを展開していく。その時点で二人は何かを警戒しているようだった。


 だが、トーゼツはその二人さけ視界に入っていない。今、彼の意識にあるのは目の前にいるべスにしか向かっていなかった。


 溢れる魔力。


 高まる心。


 何でも出来るんじゃないかと思わせるほどの高揚感。


 (今なら……絶大レベルの術もイケるか!)


 トーゼツは指輪の力を使って空間に穴を開け双剣を収納し、槍を取り出す。

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