特異課 7
トーゼツは体に纏わせていた魔力の一部をクロスボウへ送る。すると、まるで電源の入った機械のように、ギギギとゆっくり弦が勝手に引き始め、矢が生成される。
(矢の具現化?いいや、違うな……)
べスはそのクロスボウの違和感、異質さに勘付く。
一瞬、トーゼツが矢を生成したのだと思ったがそれは違うだろう。
もしも魔力で本当に矢を生成するのであれば、当然、生成したぶんの魔力は消費されるはず。だが、魔力量は変わっていない。となれば──
(クロスボウ自体に持つ力……つまりアレは神代の遺物!)
トーゼツが『職』を持っていないことをべスは知っていた。だからと言って彼の事を舐めてみていたわけじゃない。しかし、無意識のうち見くびっている所は多少ながらあった。
だが、アーティファクトを見てべスの意識は完全に切り替わる。
「こりゃあ……本気で行く方が良さそうだな」
べスも剣に魔力を送り込み、戦闘態勢に入る。
「俺はもういつ始めても良いぜ」
「俺も準備は出来た。じゃあポットバック、始まりの合図を出してくれ」
「分かったぜ」
そうして、二人はポットバックの合図を待つ。
模擬戦とはいえ、両者とも本気のようだ。一気に黙り込み、場が静寂に包まれる。この緊張感はポットバックとエイルにも伝わって来たようだ。
この状況にポットバックは、模擬戦に参加しないし、そもそもまだ戦いが始まっていないのにも関わらず固唾を飲んでいた。
「じゃあ、行くぞ」
そのポットバックの言葉により二人の表情は険しくなる。
「……始め!」
最初に動き出したのはトーゼツであった。
一気に後方へ下がりながらクロスボウのトリガーを引き、矢を放つ。
それは重く、しかし凄まじい速度で空気を掻き分けてベスに向かっていく。
矢に込められた魔力量に攻撃力、速度……。それらの事を考えるならば、基本避けるの一択しかないだろう。大抵の冒険者であればそうするはずだ。
しかし、ベスはそういう事をしなかった。
真正面からその矢を叩き斬ってみせたのだ。
「まじかよ!」
トーゼツもとりあえず小手調べの感覚で放った矢であったため、別に防がれたのは問題ない。
というか、本人曰くベスは剣聖に成れる可能性のある人物。であるとするならば、避けずに真正面から防御したりするかもな。とは思っていた。
しかし、矢の動きを完璧に見切った上で、簡単に剣で斬って落として見せるのだから驚きしかない。
「この程度か?」
べスは矢を斬り落とすために振り下ろしていた剣をゆっくりと持ち上げたかと思えば、次の瞬間には距離を取っているトーゼツへと走り出していた。
それも予測出来ていたことではある。
ベスが剣士ならば近距離戦へと持ち込みたいはず。だから詰めてくるのは簡単に予想出来ることだ。
問題は──
(は、速い!)
クロスボウしか持っていないトーゼツは今、近距離戦に持ち込まれれば素手で対応するしかない。
指輪の力で剣や槍を取り出したいが、相手の移動速度のことを考えればそんな余裕はない。