特異課 5
『トーゼツ』という単語がべスの口から出てすぐにエイルの視線はトーゼツの方へと向いた。
「あら?初めましての方がいると思ったら、アナタがトーゼツ・サンキライですのね。どうも、ワタクシはエイルと言いますの」
彼女はトーゼツに向かって挨拶レベルに軽く頭を下げる。それに合わせてトーゼツも「あ、どうも」と頭を下げるのであった。
しかし、トーゼツの知りたい事は彼女の名前なんかではない。それよりも──
「それよりもアンタ、この術は何だ!?死んだはずのポットバックは……さすがに脳の修復は難しいだろ?一体、どうやって……!?」
「ちょちょちょ、少し落ち着くのですわ!」
話を聞きたくてしょうがないトーゼツはじりじりと圧をかけるようにエイルへと無意識に近づいてしまっていた。エイルの注意を聞いて、トーゼツは一歩、下がりながら気持ちを落ち着かせる。
「エイルは術聖なんだよ」
そして、トーゼツの質問に真っ先に答えたのはエルド本人ではなく、べスであった。
「しかも、ただの術聖じゃない。これまで歴史に名を残してた術聖は結局は魔術師。研究か、戦闘に特化した者しかいなかった。だけど、エイルは違う。医者と魔術師の二つの『職』を持った多職者であり、基本、治療しか出来ない術聖なんだよ」
「そんな風に言われると治療しか出来ない不器用な魔術師みたいに思われるじゃない」
「実際、そうだろ?」
「まぁ、これまで何度も蘇らせてあげたのに、その結果がこういう態度ですの!」
べスとエイルはかなり仲が良い……というよりは腐れ縁?というかなんというか。だが、決して仲が悪い感じではなく、不思議な絆のようなモノがあるようだ。
そういうものを感じ取りながら、トーゼツは魔術学史を思い出していた。
べスの言っている通り、確かに歴史に名を残す魔術師の多くは魔術を研究する者か、冒険者のように戦って功績を残す人物だ。
もちろん、医療に通じる魔術師もこれまでは居ただろう。だが、やはり魔術師の『職』を授かった者の多くは魔術を極めようとする。だから知識も魔術の方へと偏ってしまう。
しかし、エイルは魔術ではなく医療を極めた者。
学んだ知識の半分以上は医療知識なのだろう。
だからこそ、ここまで人外離れした技術を使いこなせるのかもしれない。
「……まぁ、良いですわ。私も患者もいなければ怪我人もいない。任務もなかったので暇でしたの。ちょうどお茶を淹れているようですし、私もお茶の時間に混ざらせてもらいますわ」
そういって、慣れたようにべスの沸かしたお湯をティーポットに注ぎ、棚にあったコップを取り出すとエイルは飲み始める。食器の位置なんかを覚えているとなると、やはり彼女はここの課には何度も来た事があるのだろう。
「さて、トーゼツ。ポットバックも蘇って、ここの課の説明も終わらせた。それでアフラ様からはここに来るように言われたんだろう?もしも所属するって言うんだったら歓迎だ」
べスはお茶を飲み、菓子を食べながらトーゼツの選択を待つ。