特異課 4
べスの言葉を聞いて、少しばかり思考が固まるトーゼツであった。が、すぐに柔らかくなった思考で再度、質問をしていく。
「は?じゃあなんでこんな課に?」
エルドの件を見てもらえれば分かるかもしれないが、基本、四大聖に成れる可能性のある冒険者の大半は特殊冒険者という役割を与えられる。
特殊冒険者は、何処の課にも所属せず、しかし本部の中でも信頼できる優秀な冒険者の証。
そして、調和神アフラの直接部下というものである。
だからこそ、冒険者の憧れの地位であり、本当にべスが剣聖になる素質があるのであればこんな場所の課長なんて任されていないはず。もっと調和神アフラのもとであらゆる任務に就いているはずだ。
だが、さらに返ってくる答えもまたもや考えられないものだった。
「俺が剣聖になりたくないからだ」
「はぁ!?アンタ、冒険者だろ!だったら──」
トーゼツの中でべスに対する新たな疑問、謎が渦巻く最中であった。
「おらァ!べス、来てやったわよ!」
そこに現れたのは子供ほどの背丈をした女であった。しかし、雰囲気から感じるものは子供ではなく、トーゼツと同じか、もしくは少し年上の者のものであった。さらに杖を持っているなどからして魔術師であるというのも分かる。
「ようやく来たか、エイル。ほら、そこに馬鹿が」
その馬鹿と呼ばれて指をさす方向には死んだポットバックが居た。
「はいはい、コイツもべスも私から見れば馬鹿ですわよ」
そういって、彼女は床に魔力で魔法陣を描き、その上にポットバックを配置。杖を持って術を発動させていく。
脳を貫かれたばかりで体全ての細胞が死滅したわけではないし、血液もまだ体を循環しているだろう。しかし、ここから治療しても蘇生出来るかどうかも分からない。出来たとしても何かしらの障害が残ってしまってもおかしくはない。
エイルと呼ばれた女は医療知識を持った魔術師のようだが、無詠唱の治癒魔術なんてたかが知れている。ここから蘇生出来るのか?なんて思っていたのだが
「ッはぁ!!!!!!」
ポットバックの口が動き、肺へ一気に酸素が送られ、上体が起きる。
’「あ、あれ?ここ何処だ……?と思ったら課長とエイルじゃないっスか!どうも!!」
復活したばっかりで記憶が混乱しているようだが、この調子を見ると完全に復活してしまっているようだ。
「……まじか」
トーゼツは魔術の知識もある。なんなら術聖であるアナーヒターから叩き込まれた事も多くある。さらにこの旅してきた数年間で色んな冒険者、魔術師と出会い、時には戦った。
まだ二十歳も超えていない、生きた経験の浅いながらも世界中を見て回ったトーゼツから言わせてみれば、死人が障害なく、何もなかったかのように蘇るなんてありえないことであった。
「おっと、トーゼツは初めて見るのか」
べスはこの状況に圧倒されて声も出ないトーゼツの反応を面白がるようにニヤニヤと笑っている。