特異課 2
無精ひげの酒臭い男はサンキライという名前を聞いて強く反応を示す。
「ってことはアレか?お前……アナトの弟か?」
するとポットバックも驚き「アナトの弟!?」と驚く。
やはり姉であるアナトの名前はこんなにも変な冒険者でも知ってるほど優秀で著名な冒険者なんだなぁ、と改めて思い知らされる。
「んだよ、じゃあアフラからお前の事は聞いてるぜ。新しくこの課に所属する予定なんだろ?」
ポットバックのそのセリフにトーゼツは「いや、そうとは決まっていない」と否定する。色々と状況が分かっていないポットバックは続けてトーゼツに質問しようとするのだが
「その前に……聞いておくことがある。この矢廊下に刺さってたんだが?」
そういって無精ひげの男の手にあるのはポットバックがトーゼツに向けて放った、廊下の壁に刺さっていた一本の矢であった。
「これはお前がやったのか?」
「ん?あぁ、そうだったかな?」
無精ひげの男の言葉にポットバックは目を逸らし、口笛を吹いてごまかそうとする。だが、無精ひげの男はじっとポットバックの眼を見続ける。
「正直に言えばまだ、な」
その言葉を聞いてポットバックは「じゃあ素直に話してやるぜ。それは俺の放った──」
と語り始めたその時、無精ひげの男は矢をポットバックめがけて投げる。
それはまるで槍投げのように技術と経験を巧みに利用する投げ方であった。そして、それで放たれた矢は弓から撃たれたかと思うほど綺麗に真っすぐ進み、バスッ!とポットバックの頭に突き刺さる。
「うゲッ!!」
「えぇ!?えっ、えっえぇ?」
隣で死んだポットバックに、殺したことに何も思わないこの無精ひげの男……。一体何が起こって、どうすれば良いのか。もう何も分からないトーゼツは驚くことしか出来なかった。
無精ひげの男は懐から一枚の羊皮紙を取り出す。そこには魔法陣が描かれており、魔力を流し込むとまるで機械の歯車のように回りだす。
どうやら通信系の魔術が組み込まれているようだ。
「聞こえるか?」
『ええ、聞こえてますわよ。突然の連絡……ということは』
その魔法陣から聞こえてくるのは一人の女性の声であった。
「ああ、ポットバックを殺した。特異課の部屋まで来てくれ」
『はぁ……死んだじゃなくて殺した、ね。全く、色々と文句は言いたい所ですけれど、とりあえずそちらに行ってから言わせてもらいますわ』
「おう、そうしてくれ」
そうして通信を終え、無精ひげの男の意識はトーゼツへと向けられる。
「さて、改めてようこそ。俺が特異課、課長を任せられているベス・デルヘットだ。よろしく」
「……はぁ」
トーゼツはこの狂ってる状況に軽く返事することしか出来なかった。と同時にアフラはどうしてこんな場所へと俺を向かわせたのか、と恨みを連ねることになったのであった。