里帰り 9
まさか調和神アフラの任務依頼をこうして断る人間がいたとは……。
冒険者ギルド連合の会長として任命されているのは調和神アフラだ。そんな彼女からの直接任務依頼を受けられる人間は本部所属の冒険者でもそうそういない。
与えられただけでもその冒険者がどれだけ優秀なのか。という証明にもなる。本部からは強く注目されて、冒険者として出世してトップへと立つことも出来る。
それはもう……四大聖に劣らない信頼を得ることが出来るのだ。
トーゼツもそれぐらいは分かっているはずだ。なのに断ったのだ。そのことがやはりアナーヒターの中で未だに驚きとして渦巻いていた。
まぁ、断った理由もトーゼツらしいモノであったし、断られてしまった調和神アフラ本人も納得しているようだ。ここで自分が何か言うことはあるまい。
そう思ってアナーヒターは色々言いたかったことを全て喉奥へと押し戻す。
「私の任務を断る理由は分かりました。しかし、冒険者本部の支援がなければ登り切れない困難も今後はあるでしょう。そのためにアナタを本部の冒険者として登録させていただきます。よろしいですか?」
「まぁ、それぐらいだったら断る理由もないし、地方のギルドでも本部の冒険者と伝えればそれだけでもかなりの信頼を得られるだろ?だったら是非、登録して欲しい所だ。でも本部の冒険者って大体何かしらの課に所属していると聞く」
本部の冒険者は地方のギルドで活躍する冒険者よりも秀でている。だからこそ本部へと招集され、特殊で困難な仕事を引き受けることが多い。また誰がその任務を行うかを素早く、確実に決めるために課を設けている。
例えば、魔物への知識、経験の多い冒険者が集まる魔獣対策課。指名手配にされている者たちを捕まえる犯罪対策課。さらに大商人や政治家を守る護衛課。そして、厄災を研究、対応する厄災課……。
本部に所属するというのはすなわち、このどれかの課に所属するということでもあり、結局は本部に縛られる事になる。
もちろん、課に所属していない者もいるがそれには特殊冒険者になる必要がある。だが、それには多くの実績と多くのギルド長からの認証が必要になる。
アフラからの呼びかけだけで成れるようなモノではない。
「分かっています。でも安心してください。アナタの所属する課はそんな縛りはない場所ですから」
それを聞いてトーゼツは「はぁ?」とあんまり分からない様子だったがアナーヒターは「あぁ……」またもや納得したようであった。
「あそこにトーゼツを配属させるつもりなの?だったら特殊冒険者にさせた方が良いでしょ?だって厄災討伐に加担しているし、アナトからも何か言えば他のギルド長とかも説得できるしさ」
「それでは一か月以上時間がかかるでしょうし、それで上手く事が運べば良いですけど、組織の中には欲望が渦巻き、嫉妬、逆恨みする連中も少なからずいます。プライドの高い冒険者だっているでしょう。そんな彼らが『職』を持たないトーゼツ・サンキライが特殊冒険者になったと聞いたらどうすることやら……」
アフラの意見も、最もとなものだ。
「まぁ、私がどうこう言うより一度、トーゼツ自身が訪れてみてください。ギルド本部の二階に特異課と呼ばれる部署の部屋があります。その課であればトーゼツでも上手くやっていけるでしょう」