アーティファクト 5
そこまで考え、予測出来た結果、ミトラは理解する。
「そうか、これは神代の頃の……!」
だとしたらかなりの宝物である。神代の遺跡というのは世界中を見渡せばあちこちにあり、見つかっていないものもある。そこで過去の武具が見つかるのは多々あるが、ほとんとが古く、使えなくなっているものである。それを修復できる職人もいるが、その歴史的な価値があることも相まって、使われることはなく、飾られる場合が多い。
つまり、このスーツの商人は—
「もう分かったようですね。私は武具に限らず、神代の宝物。言わばアーティファクトを集め、修復する商人、アブル・ヘイフォンと申します」
彼が長けているのは鑑定の目だけではなく、その古代以上の……神代の道具すらも修復することが可能なその技術。
「しかし、神代の宝物収集は私の趣味で、そこら辺の貴族と使い道は変わりませんよ。飾り、眺め、愛でる。使われることはない。ですが、トーゼツ様だけは特別なんですよ」
そう言って二人はトーゼツへと視線を動かす。
彼は箱の中にあった剣へと手を伸ばし、持ち眺めていた所であった。
「素材は……白鉄金だな。素材自体は珍しくないが……」
まじまじとトーゼツは剣を観察する。手で気を付けながら刃を触り、片手で持ったりして重さを確認してみる。また、よく見ると柄頭の方には猪のデザインが施されている。
「持った感じは悪くはないが―」
そう言って、トーゼツははめている指輪に魔力を流し込む。そこから、空中に出来た穴に手を入れ、一本のナイフを取り出す。そして、ナイフの刃に魔力を込め、剣にあえてダメージを与えるように叩く。
まだ買ってもいない商品だぞ、とギョッとするミトラだった。が、すぐさま剣に出来たキズが消えていく。それこそ、まるで生き物が時間をかけて怪我を治癒させていくように。その剣もまた生きているかのようにキズを治すのであった。
「面白いな、自己再生持ちの剣ってわけか!確かに、アーティファクトの中では最高級と言ってもおかしくはないほどの代物だな!」
「ええ、やはりお気に召すと思っていましたよ。それでは金額の方がですね……」
「今回はこのミトラが支払いをしてくれることになっているんだ」
「えっ!?」
いや、そういう約束ではあったが……。
ミトラは普通の剣。もしくは高くても魔鉱石で作られた魔力伝導の高い魔剣を選ぶと思っていた。しかし、アーティファクトとなると、話は変わってくる。
歴史的にも価値があるうえ、その効果は絶大。また、修復するのにも時間と費用がかかっているはず。それを考えるならば、支払額はかなりの金額になるはずだ。
「そうですか。ではご遠慮なく剣聖様にこちらを」
ヘイフォンは問答無用でミトラへと請求書を渡す。そこには、最初、予想していた以上のゼロがついており、目を飛び出させるのであった。
うわぁ、と思いながらも、出せない金額ではない。今日は念のため、所持金を多めに持ってきていた。そのうえに、自分もせっかくなら何かしらの武具を見て、良いのがあったら買おうと思っていたのだ。普段よりもかなりの金額を持ってきていたため、その支払いにすぐさま対応することが出来るのであった。
「じゃあ、俺はテントに戻って少し商品を見てくるわ」
そうして、支払を済ませようとしているミトラを置いて、元来たテントの中へと戻っていくトーゼツであった。