里帰り 7
アフラのその説明を受けて確かにトーゼツの記憶の中で思い当たるものがあった。
刃の厄災は討伐直後に剣が残った。支配の厄災では頭に乗っていた王冠だけが消えずにその場に留まっていた。つまり、あれらが厄災の『核』と言える部分だったのだろう。
それらをあのローブの者達は回収しているということか。
「それは知っている。私もいくつかの厄災を討伐して『核』を回収しているからな」
アナトはどうやら知っていたようだ。
まぁ、冒険者ギルド連合本部の最強であり、頂点だ。今後も厄災討伐していくであろう彼女がその情報を知らないわけがないか。
であればミトラも知っている可能性がある。刃の厄災はミトラの単独任務であった。だからきっと厄災討伐後にあの『核』である剣を回収する予定だったのだろう。
「問題は『核』そのものだ。私は厄災の力が残っているとだけ教えられていたが……意識と魂が残っているのをなぜ黙っていた?吸収すれば力を得ることも出来ることをなぜ隠していたんだ?」
明らかにアナトは負の感情を持っている。
『核』について教えてくれなかった事に対する疑念。本当にこれからも信用して良いのか?という不信感。そして、口調に多少の怒りが帯びてきている。
「……それに関してはすまないと思っている。だが、同時に私ですら知らなかったことであると言っておくとしましょう」
「神々の頂点で、調和神であるアンタが知らない……ってそんなの信じられるか!!!」
ここでアナトはとうとう爆発する。
「その俯瞰的で、全部他人任せな態度を止めろ!アンタら神どもの計画は知っているが、アンタらが厄災の『核』についてより詳しく知っていればこうなることにはなってねェんだよ!そのくせ、厄災に関する研究、実験は危険であることを理由に基本、禁止されてる!そして禁止したのはアンタだろうが!もしも『核』を研究して、この事をもっと前から把握していればこうはならなかっただろう!のくせにどうして関係ない、自分のせいではない人類頼りの思考に行動、態度!!!イラつくんだよ!!」
「それは……申し訳ありません」
「謝れば良い問題でもないでしょうが!!」
アナトは一気に喋ったことで「はぁ、はぁ」と息を切らしながら、その場から勝手に去ろうとする。それをアフラは引き止めもしなかった。
「今日はもう休む。色んな事が山積みだ。怒りが消えて、頭が冷えてきた頃にまた話を伺いに行く」
そういって彼女はエレベーターのボタンを押して、ドアが閉まるとそのまま下へと行ってしまう。
アフラも少し考え込んでしまった表情へとなる。
それはアナトへの接し方。自分の態度。どうすれば良かったのか。
それを見てトーゼツの中で彼女への評価が変わる。
これまで神々というのはもっと……なんというか…人間には分からない存在だと思っていた。
人間に祝福を与えるのにも関わらず、時には不幸へと導く。救ってくれたと思えば今度は見放すこともする。しかも、基本人の前へと現れることはない。
だからこそ、トーゼツは神に対して良いイメージを持っていなかった。
だが今のアフラを見てトーゼツは悟った。
神は人ではない。だからこそお互い理解出来ないし、分からない存在だと。だからこそ知ろうとして寄り添うし、こうして悩みを抱えることもあるのだと。