里帰り 4
そんなトーゼツの行きたくないという気持ちをアナトとアナーヒターは汲み取る。それでもなお、アナトはそのトーゼツの言葉を無視して、手を引っ張る。
「問題無いよ。それに調和神アフラと会ったら印象変わるよ」
アナーヒターもうんうん、とアナトの言葉に同意しながら「あの方は人々が思ってるほど離れた存在じゃないし、一番、人と言うのを知っている方だと思う」と言う。
なんだかそう言われるとより調和神アフラという存在がどんなものなのか。知りたい気持ちへとなるが、同時に自分の許せなくて会いたくないという気持ちも心の中で相反していた。
しかし、どうすれば良いか。行った方が良いのか。ここに残った方が良いのか。と考えているうちにアナトにエレベーターの中から引っ張り出されて連れられて行く。
「い、いやいや!まだ俺は──」
無理やり連れていかれる事に戸惑いと多少の怒りを含めながら手を引き剥がそうとしたときには、不思議な場所へと立っていた。
天井と床は、この建物の外見のように研磨された黒曜石のように漆黒だ。そして床には巨大な魔法陣がぐるぐると機械のように回っている。しかし、壁の方は黒くなく、逆に明るかった。というか、壁と呼ぶのも相応わしくない言葉だろう。では、これらをなんと言えば良いのか。
言うなれば空である。青く澄んだ空間がそこには無限のように広がっており、しかし上と下は黒曜石のような闇で挟まれている。
そんな不思議で、面白い空間の中央……魔法陣の上で立つ一つの影。
それこそトーゼツの知りたいものの、会いたくないモノ。
神々の頂点であり、この世界最後、神代から残った一柱。
調和神アフラであった。
「よく戻ってきました、アナト・サンキライとアナーヒター」
アフラは二人と目を合わせると礼儀正しく、軽くお辞儀をする。
トーゼツはその姿に驚きがあった。
天の存在とも呼べる神の彼女の方が……人間とエルフという地上の存在に頭を下げるなんて……。
「特にアナトは厄災討伐への多大な尽力に感謝してます。今回の件はより複雑化しているようですが、その話も後ほど。そして――」
次にアフラの目線が方向はトーゼツへと向けられた。
「あなたがトーゼツ・サンキライですね。初めまして、私は調和神アフラです。あなたの事はよく知っています。あなたにも色々と話したいことがありますがそれも後ほど」
そういって、軽く挨拶を済ませるとアフラは再びアナーヒターへと目線を向ける。
「では最初に術聖アナーヒター、アナタの処罰からにしましょうか」
やはり、帰ってきてくれて良かった、良かった……というもので済ましてもらえるわけではなさそうだ。
だがそれも仕方のないことなのかもしれない。
アナーヒターはギルド連合、魔術学連合の二つの組織で良い意味でも、悪い意味でも影響を与えすぎた人物の一人だ。
冒険者として多くの任務をこなし、大勢の人から称賛されるほどの功績を残した。また魔術学連合でも研究成果を上げ、近年に発表されたものでも多くがアナーヒターの論文を参考にしたり、引用されていることがある。
だが、そんな彼女に期待して頼りにし過ぎていたのかもしれない。
彼女の失踪後、大きくギルドも学連も揺れ動いてしまった。