里帰り 2
綺麗に舗装された道。街の景観を考えて植えられた歩道の木々にあちこちに設置されているごみ箱。また子供もお年寄りも利用できる広場。今は灯っていないが夜になれば行きかう人々の助けになるであろう街灯。
文化、技術、学問が発展し続けている現代でもこのように公共施設が整っている国などそうそうない。しかも、この整えられた街は神代の初期……つまり一万年以上昔からあるというのだから驚きだ。
それほどまでにこの都市を築き上げた当時の神々というものはとてつもなく強大で、人々からも頼りにされ……しかし時にはその力ゆえに恐れられるものだったのだろう。
この街の凄さは初めてこの都市を訪れる人間はこの街こそが理想の場所、ユートピアであると思ってしまうほどだ。
だがここで生まれ育ったトーゼツにとっては、この場所こそが当たり前で、普通の街なのだ。
「やっぱ何年経っても変わらねぇな」
きょろきょろと見慣れた懐かしい街並みを見渡す。
もちろん、全てが何もかも変わっていないわけではない。
いくつかの建物は補修されていたり、建て替えがされたり、また旅に出る前は果物屋だったお店も今では飲食店に変わっていたりしていた。
だが、この街を包むこの雰囲気だけは変わっていなかった。
魔物に襲われる心配もなく、戦争もない。治安は良く、犯罪など滅多に起きない、神によって見守られた都市。
この場所こそが人の世界。現代の人々が考える終着点の一つ。
「懐かしいか?」
アナトの優しい言葉がかけられる。
やはり小馬鹿にすることもあるし、弟だからと言って舐めている部分も多い。しかも同じ冒険者という道を選びながらも互いはかけ離れた地位に立っている。
それでもなお……血のつながりがある家族であり、姉弟なのだ。
トーゼツの事を心の奥では大切にしているのだ。
「そうだな。帰ってくる気はなかったけど、こうしてみると心の落ち着ける場所っていうのはやっぱり故郷なんだなと思い知らされるよ」
決して楽しい思い出だけというわけではない。
特にトーゼツは神々から祝福を与えられなかったとされて惨めな少年時代を送っていた。自分をいじめる者、蔑む者もいれば同情する者。憐れむ者もいた。
だがそれらは全て上の立場にいるからこその行動、思考だ。本当に自分を対等と思っているのならばそんな事は気にかけない。
だが、それらの嫌な思いをする毎日があったからこそ、今の自分があるのかもしれない。
諦めきれない、上から見下す奴らに負けてられない。
その想いを持ってここまで来たんだ。
(あの頃に比べれば、俺は成長出来たのかな)
なんて感傷に浸っていると目的地へと到達していた。
真っ黒な、黒曜石を研磨したかのような建物。しかも形は長方形という不思議な建物。
ドアもなく、窓も見当たらない。
しかし三人は何も違和感や問題を感じることもなく、壁をぬるり、とお化けのように物理的に貫通して中へと入っていく。