支配の厄災 37
未だにアナトの放った〈テリクマ〉と支配の厄災の〈キムラヌート〉は拮抗している。どちらも押し勝つことはなく、だからと言って押し負けることもない。
だが、いずれこの拮抗は崩れ去る。
永遠にパワーが同じなんてありえない。永久機関なんて存在しないのだから、必ずどちらかが先に時間経過もしくはぶつかり合う衝撃によって起こる魔力消費によってパワーダウンするだろう。
もちろん、あとから魔力を付け足してパワーの底上げをするかもしれない。だがそうなれば軍配が上がるのはアナトであるだろう。
つまりここから先は――
(私が放った〈キムラヌート〉にアナトですら対応出来ないスピードで魔力を加えて押し出すか、アナトがそれに耐えきるかの勝負!!)
支配の厄災はそうして〈キムラヌート〉へと魔力をすぐさま流し込む。新たな魔力というガソリンを注入されやソレは威力を増し、魔力量も当然上昇。そしてグググッ!と槍をゆっくりだが次第に押し出し始める。
アナトも放った槍に魔力を流し込み始めるが、押し勝つことが出来ない。
(魔力操作では私の方が一枚上手か?魔力移動を素早くさせるのには単純な力じゃない。経験や訓練が必要だし、慣れもある。どうやらこれは私の勝ちのようだな!!)
勝利を確信した支配の厄災からは笑みがこぼれる。
「さぁ、どんどん魔力を流し込むぞ!これに耐えられるのかな?」
もっと、もっと押し負けていくアナト。
だが、彼女の顔からは負の感情はなく、態度も堂々としたもので不安になっている要素は何処にもなかった。
「そうか……じゃあ悪いけど少し本気で行くか」
彼女はさらに指輪の力で空間に穴を開け、虚空から何かを取り出す。
それは一つの杖。
魔術師が持つような……魔鉱石が装飾された、美しい木の杖。だが知識がある者からすれば分かる。とてつもない魔力を蓄積された、あらゆる機能がついた魔術の杖であると。
「魔術!?」
支配の厄災は驚く。
この〈テリクマ〉は絶大弓術だ。つまり、それが意味するものとはアナトが弓士であるということだ。槍士であることも考えられるが、だが槍を極めた人間が絶大弓術を使えるイメージが沸かない。
だからこそ支配の厄災はこのように考えていた。
槍士と弓士の二つを掛け持ちする多職者である、と。
「何が…起こっている……!?」
分からない。
魔術師と槍士と弓士の三つを掛け持ちしている多職者?いいや、無い話ではないが、そんな三つの職を極められる人間なんているものか。
動揺し、状況を呑み込めない支配の厄災に向けてアナトは答えを述べる。
「教えてやるよ、私はな。術聖と槍聖と弓聖の三つを掛け持ちする多職者なんだよ」
そういって、彼女は魔法陣を展開し、術を発動させる。
「絶大魔術〈ディトゥルデーレ・マギア〉」
魔法陣から出たのは、単純な魔力。しかし、確実に槍を狙って一点集中に放出されたその魔術は槍を押し上げ、あっという間に〈キムラヌート〉を打ち破る。