支配の厄災 34
支配の厄災はその斬撃を避けることが出来ず、全て真正面から受けてしまう。のだが――
「なんとも鋭い切れ味だな。硬い鱗を持つ竜であっても豆腐のように斬ってるんだろうけど」
五体満足であった。
ただ、斬られたであろう個所からは血が流れている。が、皮膚が斬れているだけ。肉まで裂けている部分もなくはないが……とにかくダメージを与えただけで死ぬほどの攻撃ではなかったということだ。
「何処ぞの神なのか知らんが、その程度の力じゃあ届かないぞ!」
支配の厄災は魔力を纏った右拳をテイワズの腹部めがけて殴り掛かる。
「ッ!!」
それはみぞおちに入り、肺の酸素は一気に吐き出させる。また、凄まじく重いその一撃で体が動かなくなる。どんなに脳から命令を送っても、その脳信号を筋肉が受け取ってくれない。
ふらふらと足元がおぼつかない。
立っているだけで精一杯だ。
そこに問答無用で手をかざす支配の厄災。
「おいおい、この程度か?」
それは嗤う。
圧倒的な力を持っているはずの二柱の神を見下し、嗤っているのだ。
「おい、私がいるのを忘れているんじゃないのか?」
それは後方からだった。
突如として現れた巨大な殺気。
何か来る!
それは拳か、魔術か。それとも武器による攻撃か。
とにかく対応しなければ!と思った支配の厄災は咄嗟に振り返り、拳を突き出す。
すると、そこには槍があり、ダァン!と拳と槍がぶつかり魔力の衝突が起こる。
同等の力だったのか、二人は大きくのけぞり、態勢を崩す。その最中、
「これはァ!ハハハッ、素晴らしいなァ!!」
支配の厄災は歓喜の声をあげる。
「あんな神とは比べものにならない力!多大な魔力による攻撃ではなく、知識、技術、経験を含めたまさに最高の一振り!」
「当たり前だ、私に勝てる者なんて人間……いや、この星にいないと言っても良いからな!」
態勢を整え、アナトが行うのは槍による突き攻撃。
動きに無駄は無く、また魔力の消費量も最小限。しかし、侮れないほどの高威力でありとあらゆるものを貫通するのではないか?と思うほどの攻撃。
支配の厄災はそれらを冷静に見切り、適切な処理をしていく。
なるべき避けて、避けきれないと思えば魔力を纏ったその手で槍の向く先を逸らしていく。そして、攻撃の合間に支配の厄災も拳による軽く反撃を入れていく。だが、アナトはそれを避けもせず、受けてもダメージを負っている様子は全くなかった。
(硬い、というよりかは厚いな。ありえんほどの魔力の膜で全身を覆っているな。打撃程度じゃあ話にならんな)
思考しているその時、シュッ!と頬を槍先がかすり、ツーと血が流れ出る。
(明らかに押されているのはこちらの方!この状態が長引けば負けるのは確実。距離を取ろうにもその余裕はない。必ず追撃される。であれば――!)
素早く手をかざし、アナトを吹っ飛ばそうとしたその瞬間
「そこだッ!」
ぐちゅ、と肉を突き刺す音と共に支配の厄災の手のひらに槍が深く突き刺さる。