支配の厄災 33
それは、誰も予測していないほど、突然で素早く、ありえないほどのパワーであった。
なんと、この中で最も強いと言っても過言ではないほどのアナトが後方へと吹っ飛ばされたのだ。
油断していたわけではない。武器を握りしめ、いつ、どこから、どんな攻撃が来ても良いように身構えていた。それに、何度も遠距離で吹っ飛ばす力を見ているのだ。ちゃんと脚にも力を入れていた。
それでもなお、飛ばされたのだ。
それは詠唱もなく、魔法陣はない。ただ、右手を前に出し、かざした。ただそれだけの動作。だが、そんな簡単な動作だけでこれほどの力。
だが、アナトも化け物じみた行動を見せる。
吹っ飛ばされている最中に槍を地面に刺し、それをポールダンスのような動き……と言ってもセクシーな動きではない。より正確に言うならばサーカスのような動きか。とにかく、槍に腕と脚を巻き付け、態勢を整える。
また、アナトが吹っ飛ばされたタイミングですぐにシスとテイワズが動いていた。
シスは両手に魔力を纏うと、それを短剣へと具現化させる。テイワズは片手に剣を具現化させて二人は接近する。
「ふむ、やはり彼女は別格だな。冷静な判断に、適格な行動……だが君たちはどうかな?」
そうして今度は二人に向けてその手をかざされる。
二人は甘く見ていた。
アナトは人間で自分たちは神。アナトが吹っ飛ばされたのは人間的な油断、弱さ、技術の無さ故だと。そして自分たちは神であり、吹っ飛ばされることは絶対に無いと。
ハッキリ言って人間を見下していた。
テイワズならともかく、シスは否定するだろう。だが紛れもなくそう思っており、それは無意識から来るものであった。
だが、甘く見ていようと本気であろうと、結果は変わらなかっただろう。
二人は気づけば、地面へ倒れこんでいた。
(な……に…が!?)
混乱するシスの喉から熱いものがこみ上げ、口から出てきたものは大量の血であった。
「く…そォ!!」
やはり最高神。シスとは違い、吹っ飛ばされたものの、まともに喰らってもなお、それは素早い動きで立ち上がり、あっという間に支配の厄災との距離を詰める。
「てい…ワ……ズ!!」
それはシスからの必死の叫びであった。
厄災は人類が倒すべき存在。神を超えるために必要な要素である。一度倒したとはいえ、厄災に変わりない。それをテイワズが倒すのではないか、という心配の声であった。
だが、テイワズはその言葉を聞かず、攻撃をしていく。
(もう人類へと時代を明け渡すなどの計画など知らん!!神であるこの俺を攻撃した事をここで後悔させてやる!!)
それはおぞましいほど鋭く、素早い斬撃。
魔力を纏わせ、何度も、何度も斬っていく。振り下ろした瞬間など見えない。一体、どれだけ素早い攻撃なのか。ただ光の筋となってそれらの斬撃が見えるだけであった。