支配の厄災 31
アナトやアルウェス、いいや、もうその場にいる全員が動きを止めている。
最初はトーゼツ達だけが彼女へと意識を向けていた。その事から襲撃してきたアルウェス達には支配の厄災が残した王冠を頭に乗せたことで何が起ころうとしていたのか、分かっていたということだ。だから最初は全く意識を向けていなかった。
だが、今は違う。
アルウェス達も呆然としている。
襲撃されたトーゼツ達も、襲撃してきたアルウェス達でさえも、誰もが分からない方向へと物事が進もうとしている。
そんな静寂の中
「失敗……したのか?」
ぽつり、とアルウェスがつぶやく。
「いいや、そんなはずはないでしょ?あの人が彼女には適正があるって言ってたじゃない!それに厄災の核を吸収することには成功してるんだから―――」
離れてヘイドと戦っていたイルゼがアルウェスのつぶやきに反応する。相変わらず嗤いを含んだ口調であったが、何処か自信が無さそうな声でもあった。
そうして、数十秒の間ローブの女の動きは静止し、完全に魔力の流れも止まってしまっていた。だが、まるで電源の入ったパソコンのようにそれが稼働する。
「やはり、成功したんだな!これでやるべき事は終了した!すぐさま退却―――」
その時だった。
突風が吹いたかと思えばボンッ!と突如、アルウェスの体に衝撃が走り、数十メートルも吹っ飛ばされていく。
「……ッ!?くゥ!いった…い、な……にィ、ぁ!」
アルウェスは一体、自分の身に何が起こったのかさえ理解できず、またアナトとの戦闘による負傷に、疲労……もう肉体は限界を迎えており、力尽きて気絶してしまう。
もちろん、イルゼも、アナーヒターと戦っているローブの男も、何が起こったのか理解出来ない。
だが、トーゼツ達は知っていた。
より正確に言うのであれば、見たことがあった。
何せ、それがどういう仕組みなのか。魔術なのか、能力なのか……分からないからだ。だが、あのアルウェスの吹っ飛ばされた動きは見たことがあった。
そう……それは…!
「煩い奴だ、ケラケラ嗤いやがって。しかし、面白い事を考える奴らだ。厄災の核を取り込むことで厄災の力を手に入れようとはな!」
ローブの女は…いや、『ソレ』は自分の手を眺めていた。
指が自由に動く。
体が自分の言う事を聞いてくれる。
どれも当たり前の事。
だが、『ソレ』にとっては新鮮で、感動を覚えるほどに嬉しい事であった。
「だが、愚かだな。厄災の力など人の手に余るものだ。だからこうして私に肉体を奪われるのだよ!ははははははははッ!!!!!!」
それはさっきトーゼツ達が倒したはずの存在。
人類が討伐しなければならない悪そのもの。支配される恐怖から生まれた、十五の厄災の一つ。
支配の厄災であった。