支配の厄災 28
この素早い二回目の攻撃もまさかはじかれるとは思っていなかったようで、アルウェスは次の一手をどうするべきか、考えていなかった。
これほどのスピードはもう出せない。術を使おうにも、詠唱に魔法陣、魔力消費に時間がかかる。
考えれば考えるほど、彼の動きが鈍ってしまう。
「おいおい、この一手で一気に追い詰めるつもりだったのか?だとしたら本当に馬鹿だな!!」
グググっ!と槍を持つ右腕に力が入り、魔力が流れ始める。
(来る!)
咄嗟に魔力で身を覆うが、それ以上の素早さと威力であった。
グシャ!グシャ!グシャ!グシャ!と槍が何度も体を貫く。何度も貫かれ、そのたびに何度も抜かれる。纏う魔力すら貫通し、肉を裂き、内臓を超えて槍先が背中から飛び出る。
見切れない。
捌けない。
攻撃を喰らうことしかできない。
(これが……神代の終末者!!)
一端であれど、彼女の異名が伊達ではないことを改めて思い知らされながら彼は倒れ込む。
アナトは問答無用で、トドメの一撃を放とうとするが
「ッ!」
それを邪魔するかのように正面から真っ直ぐたナイフが飛んでくる。それは魔力を帯びているものの、アナトにとっては大した攻撃ではない。ナイフを簡単に避ける。
それでも、アナトは一瞬だけでもアルウェスからナイフへと意識が向いた。向いてしまった。
倒れ込んでいたアルウェスは拳に力を入れ、強く鎌を握る。それと同時に身体中に空いた穴から痛みが駆け抜ける。だが、どんな痛みも苦しみも、狂気に飲まれた彼にとってはなんともない。
「ははッ!!」
アルウェスは嗤いながら、鎌で勢いよく斬り上げる。
しかし、アナトにとってはやはり脅威なり得ない攻撃。避けるも、はじくも、受け止めるも可能。どのようにでも対処出来るからこそ、どうしようか?と考える始末。
だがその狙った先のモノはアナトではなかった。ガキンッ!と鉄のぶつかる音と共にアナトの持っていた槍が空中を舞う。
「こっちを狙っていたのか!?」
「どんなに強くても、武器がなくなればそれも半減だろう!!」
まさか、アナトではなく、アナトの持つ武器を狙っていたとは。
それに気づいていなかったアナトは、その力に押されて思わず手から槍を離してしまったのだ。そうして斬り上げられた槍はアナトの頭上へと行ってしまった。
さらにドスドスドス!とアナトの腹部にナイフが三本、突き刺さる。
それはローブの女が投げた魔力を帯びたナイフであった。
「強者故に油断したね?それじゃあ、バイバイ!!」
そう言って、斬り上げた巨大な鎌の刃を今度は素早く斬り下げ、アナトを切断する。
アルウェスの能力は、鎌で貫いたモノを殺す。それに例外は存在しない。正確に言えば魂を刈り取るというもののため、魂がなければ殺せはしないのだがそんな生命、知っている限り存在しない。
人類最強、神代の終末者のアナトだって同じこと。
これで彼女は死んだ。そのはずだ。
しかし——
「えっ?」
アナトはまだその足で立って、アルウェスを見下ろしている。
「どうした?何か予定外の事が起きた顔をしているが?」
アナトは挑発するように、アルウェスへとその言葉を投げかける。