支配の厄災 27
そうしてテイワズとイルゼ、アナーヒターとローブの男が戦いを始めているその時、アルウェスともう一人のローブの者はアナトと対峙していた。
「アンタの話、トーゼツから聞いているよ。アルウェス君、だったかな?弟が世話になったらしいなァ?」
アナトはボキボキと指を鳴らし、右手で背負っている槍を取り出す。
「その節はどうも。弟君はとても強かったし、今後もお世話になるかもね?それよりも俺たちの目的はアナトさんが持っているその冠なんだよね?」
そういってアルウェスが指をさすのは、先ほどまで支配の厄災が被っていたダイヤモンドのような輝く宝石が装飾されている美しくも、人の欲を映し出したかのような王冠。
「これが狙いか?これはあげられないなぁ。欲しいのなら、力づくで奪うしかないよ?」
アナトはその冠を自分の頭に置き、空いた両手で槍を構えて戦闘態勢に入る。
「そうみたいだね。まっ、本気の殺し合いもしてみたいけど、今日は殺しじゃなく、冠さえ手に入れば問題はないんだ。倒すのならともかく、王冠奪取だけだったらいけるさ。二人でかかればね」
アルウェスは巨大な鎌を構えて、同じく戦闘態勢に入る。
「まさか初の任務でアナトと対決だなんてね……。ははッ!たまらないなァ!!!」
片方のローブの者も構える。フードを深く被っているため、何者なのか分からないが、声からして女であるということは分かった。
ローブの女は懐から数本のナイフを取り出し、指と指の間に挟み構える。
「久しぶりだな、私をアナトと知ったうえで戦いを挑む馬鹿がいつなんてね」
数年前……ざっくりではあるは厄災を初めて討伐した辺りだろうか。あの頃は色んな奴らに勝負を挑まれることがあった。自分がどこまでいけるのかという力試しに、こんな二十もいかないガキが冒険者として活躍している事に対する嫉妬……本当に様々な理由で戦いを挑まれた。
だが、自分が実績を得れば得るほど、アナトに対する周囲の意識は変わった。コイツは人間じゃない、化け物だ。神の領域に片足突っ込んでいる人外だと。
それ以降、喧嘩を吹っ掛けられることも少なくなり、誰しもが逃げる、避けるようになってしまった。人と真正面から戦うことはなくなってしまった。
だからだろうか。
久しぶりに馬鹿がこうして自分と真正面から戦ってくる事に喜びを感じるのは……!
「かかってこい、馬鹿ども!叩き潰してやるからなァ!」
アナトのその喜々とした叫び声と共に、アルウェスとローブの女はアナトへ距離を詰める。
アルウェスはくるくると、まるでバトンのように鎌を振り回しながら助走と遠心力を味方にして、アナトめがけて一気に振り下ろす。
術は使っていない。しかし、魔力は込められている。その一撃は、きっとトーゼツレベルの戦士であっても真正面から防ぐことは出来ないだろう。
だがアナトはそれを槍で簡単にはじく。しかも、槍を持っているのは右手だけ。両手すら使わず、簡単にその一撃を―――
「嘘だろォ!?」
アルウェスは驚きながらも、そのままはじかれた勢いのまま鎌を一回転させ、今度は下から上へと切り上げる。だが、それも簡単にはじく。
カァンッ!と音と共にぶつかった衝撃と火花が散っていく。