アーティファクト 3
そうしているうちに、トーゼツの足がぴたりと止まり「よし、目的地に着いたぞ!」とミトラに言う。
そこは一つの屋台であった。テントを張ってあり、そこに大きめのテーブルを置き、品質の良い商品が並んであった。きっと、並んでいるのは一押しの商品たちなのだろう。
ミトラはテントの奥を見ると、そこにもいくつかの商品が転がっているようだったが、やはりテーブルの上に置かれている物に比べれば少し見劣りするようなものであった。
そして、それら商品が盗まれたりしないように見張っているのは、木箱の上に乗った小さな身長の女であった。少女と言われてもおかしくはないが、その佇まいというか、雰囲気などからして少なくとも二十歳近いか、それ以上のように感じるのであった。
その女もかなり腕の立つ戦士のようだ。背中には一本の剣を背負っていた。
「よぉ、久しぶりだな」
トーゼツはその女へと気軽に話しかける。その様子からして、トーゼツからしたらかなり親し慣れた顔のようだ。それに、ここに来るまで迷いが無かった。それを踏まえて、トーゼツはきっと常連というやつなのだろうか、とミトラは勝手な推測をする。
「おぉ、久しぶりだな、トーゼツ。すこしまっててくれ」
その感情の薄い返事をした女は、テントの奥へと入っていく。そこから彼女が誰かと話しているような会話が聞こえてくる。
「おい、おきろ」
「ん?な…んだ?」
どうやら一人の男が店の奥で寝ていたようだ。その小さくも、大人びた彼女がその男を起こしている。
「きゃくじんだ」
「客ならお前が相手しろ。俺は昨日の夜から今日の朝まで荷物整理で疲れてんだ。今日、一日中はお前に店番は任せたぞ。よかったな、一日店長の爆誕だ
「あいてはトーゼツだよ?」
「とー…ぜつ?んあ!?トーゼツ様か!!」
その男の驚くも、荒げた声を上げ、飛び起きる。それと同時にガラガラ!と積まれていた荷物が倒れていく音が響いていく。
「それなら早く言え!!」
その男は帽子をかぶり、身なりを整えるように襟を正し、現れる。
それは、スーツ姿の男。しかも、かなり高そうなスーツだ。このあたりでは決して見ることのない服装であり、この空間から見ればかなり浮いている。
「お久しぶりですね、トーゼツ様」
先ほどまで眠っていたとは思えないほどの溢れ出る元気と、目一杯の笑顔を見せるスーツの男。
「いやはや、そろそろ来る頃だと思っていましたが、今日だとはね」
「俺の欲しがっている物は分かるだろ?」
「ええ、もちろんですよ。しかし、見かけない顔のお嬢さんがいらっしゃいますが?」
そう言ってスーツの男はミトラの顔を覗き見る。
「私はミトラ・アルファインです。今日は彼の—」
「おおっ!あの剣聖様ですか!」
ミトラはトーゼツの剣を壊しちゃったから、新しい剣の代金を払うための付き添いである。というのを説明しようとしたのだが、その説明すらも邪魔するようなハキハキとした声で驚く男であった。
「まさか、トーゼツ様があの剣聖様と一緒にいるとはね。まぁ、あなたの事を考えたら、なぜ一緒にいるのか。ものすごく予想はつきますが、それにしてもかなり驚きましたよ。はははっ、ところで、いつも一緒にいるあの子が見えないですが?」
「アイツはしばらく休ませている。アイツに用があるなら……」
「いやいや、別に取り出す必要はありませんよ。まぁ、とりあえず奥へ!」
そのおしゃべりの止まらないスーツの男に誘われ、二人はテントの中へと入っていく。