支配の厄災 26
ローブの男が着地した直後であった。
背後へと回り込み、斬りかかろうとする者が一人。それはトーゼツであった。
(これなら入る!)
明らかにローブの男の視界の外。背後であり、完全に死角。それでもなお―
「なッ!」
トーゼツは驚きながら、防御された反動で体がのけぞり、まさにノックバックを受けた状態になってしまう。ガキンッ!と鉄がぶつかる音が周囲に響き、また勢いよくぶつかったことで強い火花を散らしていく。
トーゼツの攻撃を防いだのは、一本の剣。
だが、それはローブの男の手にあるものではない。それは魔術を利用しているのか、それとも別の力、技術なのか分からない。ただ言えることは、それは浮いていた。
翼でも生えているのかと思えてしまうほどに軽々と空気中を、ローブの男を中心としてまるで踊っているかのように。
「悪いが、背後を取っただけで倒せると思うなよッ!」
ザンッ!と宙を舞う刃の一撃が、トーゼツの胴体へと直撃する。
ノックバックの状態で、防御も出来ず、避けることも出来ない。身を守るように肉体に魔力を纏わせていたが、相手の刃にも魔力が込められている。トーゼツは簡単に斬られ、さっくりと裂かれた肉から勢いよく血が噴き出る。
「真っ二つにしようと思ってたんだが、すげぇ分厚く魔力を纏ってやがる。肉までしか斬れなかったか」
しかし、充分なダメージは与えた。
内臓まで刃が達していないにしろ、あと数分経てば出血多量で死ぬだろう。
「トーゼツ!!」
アナーヒターはローブの男を無視して、今すぐにトーゼツの方へと近寄ろうとするのだが
「させるわけねぇだろォ!」
ローブの男は行く道を塞ぐように飛び出し、剣をアナーヒターに向けて振り下ろす。それをアナーヒターは杖で相手よりも強い力で殴り上げ、弾き飛ばす。
「おォ!?」
遠距離戦や、支援を得意とする魔術師がこんな簡単にパワーで押し負けるとは……。魔力や魔術による身体強化、筋力増強はしているのだろうが、それでも―
「問題は無ェ」
ローブの男は次の一手をすでに打っていた。
シュルシュルと何かが風を切りながら回転している音が聞こえてきたかと思えば、それはトーゼツを斬った宙を舞う剣であった。ブーメランのように飛びながら、それはアナーヒターに向かって襲い掛かる。
ザンッ!とアナーヒターの腕へとそれは掠れる。
「ちぃッ!」
避けきったものの、それは完璧ではなく腕から赤いモノが滴り、ポトリ、ポトリと落ちていく。
「まだまだァ!!」
ローブの男は魔力から剣を具現化し、それを体の一部のように空中で動かす。
その全ての舞う剣がアナーヒターに向かって襲い掛かる。
(全部で十四本は確認したな。全部受け止めるか?いいや、それよりも―)
彼女はトーゼツの方を確認すると、そこにはいつの間にかシスがおり、トーゼツを治癒してくれている。かなり心配していたが、彼女がついてくれているのであれば安心だ。
アナーヒターは戦いに集中し始める。
(さて、よそ見しているうちに三本が私の背後を取るように回っていくのが見えたな。それに現状、把握できる数がいつのまにか八本になっている。残りの六本の行方が分からない以上、いつ、どんなタイミングで来るか分からない。ここは逃げながら、様子を伺うのが最善策だな!!)