支配の厄災 24
全ての傷が癒えたエルドは、肉体的な疲労、負傷全てが消えたものの、精神的な疲労が消えることはさすがになく、彼は意識を失ったままであった。
「悪いけどシス、俺たちも癒してくれないか?」
トーゼツとアナーヒターもシスへと近づく。「もちろん」とシスはまずアナーヒターへと手をかざし、治癒を始める。
アナトもまた、自分も手伝った方が良いかと思っていたが、さすが女神。完璧に治癒しているのを見て自分がすることは何もないな、と判断する。
そんなアナトが次に意識が向いた先は、支配の厄災が残した王冠であった。
「さて、私は私の与えられた最重要任務を果たすとするかな」
そのように独り言をつぶやきながら王冠を拾い上げようとしたその時だった。
「やはり来たな!!」
何かがものすごい勢いで接近して来る気配を一早く察知したヘイドは魔力を放出させ、液体のような、煙のようなその不定形な魔力に形を与える。
それはいくつもの剣の形。それらは空中で同時に具現化され、まるで矢のように発射される。
発射された方向には、四つほどこちらに向かって凄まじいスピードで駆け寄る影があった。
全員が黒いローブを身に纏い、フードを深く被っている。それは支配の厄災を彷彿とさせるような恰好であった。
「へぇ、これが貴殿の技……いいや、まだ技とも呼べるかどうかも分かりませんね。でも、力の一端であることには変わりないでしょう。でも、この程度なら!!!」
一つの影が魔力を具現化し、生み出したのは巨大な死神を彷彿とさせるような鎌であった。
影はその鎌を使って向かってくる全ての剣を大きく振り払う。
「あれはアルウェス!?」
トーゼツは巨大な鎌を見ただけで何者なのか、理解する。
「ふははッ、どうやら彼は俺の事を覚えていてくれてるみたいだねェ!とても嬉しいよ!!でも、今日は君と遊ぶ時間はないかな?」
アルウェスの視線もトーゼツへと向いていたが、すぐさま彼の視線は別の方向へと行ってしまう。
そんな中
「私はあのテイワズと戦いたいわ!」
と言って影の中の一人が両手を強く握り、拳を作ると仲間の許可を待たずにヘイドもとい、最高神テイワズの方へと駆けていく。
「ったく、俺も戦いたかったけど、しょうがねぇ。俺はあのトーゼツ達でも足止めしておくわ!」
そう言って、さらにもう一つの影が治癒を受けていたトーゼツへと向かう。
「今回のお仕事は戦う事がメインじゃないことを忘れるんじゃないぞ!」
アルウェスは離れていく二人へとそのように注意を促すのだが、何の返事もなく、本当に聞こえているのか分からない。だが、これ以上、離れた二人に構っている余裕も時間も存在しない。
「じゃあ俺と君はアナトだ!」
その巨大な鎌を持った少年の言葉に「おっけー!」と返事し、二人はアナトへと近づく。
「おら!おらおらァ!!」
テイワズへと接近した影は両手の拳に魔力を纏わせ、一気に殴り込んでいく。