支配の厄災 23
数十秒後……。
ようやく強い光が収まり、トーゼツたちの視界も未だにチカチカしながらもこの勝負、どちらが勝ったのかを確認する。
地面に落ちているのは、一つの影だけ。それは激しく息切れを起こし、魔力も枯渇し、満身創痍で立っているエルドだけ。厄災が立っていたはずの場所には頭に被っていた王冠だけが落ちていた。
「はぁ…はぁ……勝った…のか?」
エルドはまさか自分があれほどの術を発動し、思ってもいなかった厄災討伐を果たしたことにこの状況が夢が現実か、分からなくなる。
だが、今はそれよりも—
「……少し…寝た…、い」
そう言って、まるで電源の落ちたロボットのように地面へと倒れるエルド。 それを心配して駆けつけるミトラとアナーヒター、そしてトーゼツの三人だった。
また、観戦組のアナトとシスの二人も勝った彼らを迎えに行くように近づき始める。
「……勝つのは分かっていたけど、まさか厄災にトドメを刺すのが彼だったとはね」
さすがのアナトも、このように勝敗が決まるとは思っていなかったようだ。自分が戦闘に出ることなく、そのうえで誰一人欠けなかったこの状況に嬉しさと驚きの感情を抱えている。
「まぁね、トーゼツでもなければ剣聖でも、術聖でもないエルドが討伐を果たすなんて。これが私たち神々が見ている人間の可能性の一つと言っても良いかもね」
シスもまたアナトの困惑に同意しながら、全身に魔力を纏わせていた。どうやら、四人を治療してくれるようだ。
それに対し、ヘイドは全く動かず、逆に何かを警戒している様子であった。そのことに、他の六人は厄災に勝ったことに意識が向いているため気づいていなかった。
「どうか……したのですか?」
継承者と呼ばれている少女はヘイドの最も近くにいたということもあり、彼のただならぬ雰囲気を読み取り、一体、何に警戒しているのか。何を感じとっているのか、と怯えてしまう。
「大丈夫だ、継承者よ。何が起ころうとも君には指一本触れさせはしない。それに、私の杞憂で済めば良い話だからな」
そう言うものの、彼のその雰囲気は変わらない。
「うわぁ、だいぶ無茶してたみたいだね」
シスはエルドを見るだけで一体どのような状態なのかを理解したようだ。すぐさま神の知識、力を使ってエルドを治癒していく。血を流しすぎていたのか、貧血で白くなっていた顔色もみるみるとよくなっていき、枯渇していた魔力も戻ってくる。また、折れた骨に臓器も元通りになっていく。
「脳にも大きい破損があるな。ったく、私が居なきゃあ一生植物人間になってたかもしれないのに……」
今回はエルドの魔術師としての才覚……術聖に至る可能性があるとハッキリ分かった戦いであった。が、同時にこれほどの無茶をしてようやく術聖を超えたという事実がエルドはまだ術聖に到達が難しいというのが分かる戦いでもあった。