支配の厄災 22
二つの巨大な力が、周囲を圧倒させる。
戦闘に参加していなかったアナト達も、エルドと一緒に戦っていたトーゼツ達も、今となっては部外者。ただ、二人の結末がどうなるのか。それを見守ることしかできない。
エルドの脳は今なお、苦痛と、疲労で正常に働いていない。
それでも、彼はゆっくりと立ち上がり、口から出て顔に付着した血を腕で豪快に拭う。視界は悪く、自分がどれだけボロボロなのか。どんな体勢なのか。何が起ころうとしているのかさえ認識していない。
自分が術を展開し、詠唱したことさえ自覚してないだろう。
それでも、ただ—
「いくぞ、厄災!」
それは、ひたすら自由に笑っていた。
「良いぞ、来い!俺を殺して見せろ!!」
二人は同時に詠唱の最後につけなければならない術名を叫ぶ。
「〈セカンド・ベンチャー〉!」
「〈コーキュロー〉!」
エルドの魔法陣から白く、淡い光が鋭く発射される。その一撃こそが〈セカンド・ベンチャー〉であった。
それに対して発動された支配の厄災の術は、より一層、周囲の空間を捻じ曲げ、その効果範囲を広げていく。それこそが〈コーキュロー〉の効果の一つであった。
〈セカンド・ベンチャー〉は放たれた直後こそ真っ直ぐ放たれていたが、捻じ曲げられている空間の影響によって進む方向が揺らぎ、〈コーキュロー〉発動中心であるセプターの先へと向かって行き始める。
「厄災の術が一枚上か!?」
アナーヒターに治療されながらトーゼツもまたこの二つの力のぶつかりを見守っていた。
同レベルの術のぶつかり。この勝負がどちらに傾くのか、それは誰にも分からない。
「ちぃッ!このままじゃあ……押し勝てないか!?」
〈セカンド・ベンチャー〉はどんどん〈コーキュロー〉に吸い込まれる。このままでは無駄に魔力を消費させるだけだ。エルドは魔力切れを起こす……いいや、それだけで留まらず体に一生治らないような障害が出来るかもしれない。そんな覚悟を決めて魔法陣により多くの魔力を流し込み、〈セカンド・ベンチャー〉の威力を底上げする。
「魔力により威力の底上げ、か。であれば、こちらも!」
支配の厄災もまた、〈コーキュロー〉に消費する魔力量を上げ、どんどん歪みを増大させる。
ドンッ!と二つのさらなる衝突は周囲を震撼させ、魔力が火花のように明るく散っていく。
「まだ……足りない!もっと、もっと魔力を…………!!!!!!!!」
その叫びに呼応するかのように、〈コーキュロー〉発動地点であるセプターの先にヒビが入る。
「なに!?」
エルドが放ち続ける光は、どんどん威力を増していき、〈コーキュロー〉でさえ対応出来ないほどの威力まで到達し、どんどん吸い込んだはずの光が歪んだ空間から溢れ出す。
「こ、これほどの……力…なのか!?!?」
完全に〈コーキュロー〉を押し切り、〈セカンド・ベンチャー〉の光が周囲を明るく照らす。
その最中
「ようやく……私は自由に—」
そんな支配の厄災の声がエルドの耳に聞こえてきたのであった。