支配の厄災 20
支配の厄災はもう立つことすらままならない状態だ。これは誰がどう見ても、支配の厄災を追い詰めていることが出来ているとみなすだろう。この状況なら—
「今度こそ、このまま押し切る!」
トドメを刺せると思ったミトラは叫び、再び剣術の発動をしようと試みるのだが
「させん!」
無理矢理にでも足を立たせ、腕を伸ばし、振り下ろされそうになっていた刃を無理矢理ではあるが、それはしっかりと右手で掴む。
「ぐっ……!」
やはり、とてつもないダメージがあるのだろう。体を少しだけでも動かそうものなら全身に出来た斬り傷から黒い血のような液体が溢れ出す。ミトラの剣を抑えている今もなお、留まらず黒い液体は流れており、足元には全ての光を吸い込んでしまいそうな黒い水たまりが出来ている。
それでも、力を弱めない。
それは人のように痛みを感じることのない体だからなのか、それとも強い意思だけで動いているのか。もしくは—
しかし、この状況に一番慌てていたのは支配の厄災ではなく、ミトラであった。
(また剣を取られる!?)
この構図はさっきと同じ構図だ。
「離せ!!」
ミトラは力を入れて、何度も刃を掴む手を離させようとするが、やはり離れない。
エルドはもう一度、同じ術で支配の厄災を攻撃し、剣を離させようと企むのだが
「何度言わせれば分かる!同じ手は通用せん!!」
それは、何の素振りもなかった。
術の発動もなければ、動作すらなかった。
ただ、突風が吹いたかと思えば、それはエルドを強く吹っ飛ばす。
「ッ!!」
気づけば、地面に倒れ込んでいた。体の節々が痛く、また右腕に左脚の骨。そして一部の肋骨も折れているのが感覚的に分かる。そして勢いよく口から血を吐き、その苦しさで眼から涙も流れ出る。
(い……いた…い)
その苦痛は脳の思考を鈍らせ、動くこともままならなくなる。
「トーゼツの喰らった同じ攻撃!?」
ミトラは剣を奪い返そうとしながらも、吹っ飛ばされたエルドをしっかり観察しており、何が起こったのかを分析していた。
(見て確認する限り、魔力量に多少の変化がある。だったら使ったのは術の一種のはず。でも詠唱はないし、魔法陣もない。下級レベルの術とは考えられない。だったら—)
ミトラが思いつくのは一つだけだった。
「固有技能!?」
思わず口から出たその言葉に「クククッ!」と嗤いながら答える支配の厄災。
「当たらずとも遠からずだな、答えではないが良い線ではある」
そう答えている最中、ミトラは腹部を中心にとボンッ!と強い衝撃が奔る。
「油断したな」
それは刃を掴んでいる右手とは反対の手。空いている左手によるものだった。
その左手にはセプターがあり、それはミトラを腹にめがけて向かっていた。
思わず剣から手を離してしまうミトラ。そのままもう一度、セプターで強く下から上へと殴り上げる。それは見事、ミトラの顎へと的中して上空数メートルまで舞い上がらせる。