支配の厄災 19
何度も剣を取り戻そうとミトラは抵抗する。が、支配の厄災は嗤いながら変わらず自分の頭をズタズタに引き裂く。空いた穴からはより黒い液体があふれ出し、深く被っていたフードにも穴だらけになっている。
しかし、ダメージはゼロではないものの、さほどないように見える。
剣を取り戻すのを諦めて、拳と蹴りの肉弾戦になっても問題はない。戦う者、戦士として格闘技も基礎ではあるが体得している。しかし、彼女は剣聖である。やはり一番実力を発揮するとなると剣が必要不可欠である。
剣聖が拳で戦うとなったら、それはもう剣聖ではなく、拳聖だ。
(そんな架空の職業を名乗るつもりはないんだ、早く剣を取り戻さないと!)
だが、力では取り戻すのが不可能であるのは明白だ。このまま上級剣術か、絶大剣術を発動させて奪い取るか。だが支配の厄災との距離は一メートルにも満たない。発動しようものなら、体を巡る魔力の流れですぐに術の発動に気づかれて攻撃されるだろう。
術は使えない。腕力では太刀打ち出来ない。
(どうする!?)
そのように必死に思考している最中
「ミトラさん、離れて!!」
杖を構えたエルドのその言葉が耳に届いた瞬間、彼の言葉を信用してミトラは剣から手を離す。
「上級魔術〈チェーン・シュート〉!」
空中にいくつかの魔法陣が展開されたかと思えば、魔法陣を通して魔力の姿、形が変わり始める。そうして魔法陣から飛び出してきたのは鎖。それらはジャリジャリ!と硬く、冷たい音と共にまるで矢のように発射されていく。
その鎖は素早く、強い勢いで支配の厄災の肉体を貫いていく。しかも、手首、足首、腰……と人体の要所であった。と言っても支配の厄災本人が言っていた通り、彼は人ではなければ、この世のものでもない。
だが、中身がどれだけ違っていても、致命傷を与えられる箇所が異なっていたとしても、人の形をしているのならばその体を動かすために必要な箇所……関節周りのはずだ。
「くッ、くくくッ!良い術だ。だが、この程度の鎖であれば—」
支配の厄災は体全身に力を入れ、無理矢理にでもその鎖を引き千切ろうとするのだが
「ちぃっ!」
どれだけ力を入れても、そもそも体が動かない。やはりエルドの予測通り、関節周りを束縛すればどんなに強い力で暴れようとも動けない!!
「サンキュー、エルド!!」
その隙にミトラが剣を奪い返す。そして、まだ体の自由が効かない支配の厄災に大きな一撃を入れ込もうと刃に魔力を送り、術を唱え始める。
「絶大剣術〈ドライブスオーバー〉!」
それは、素早い斬撃。何度も、何度も激しく、それは支配の厄災の肉体を斬り刻む攻撃であった。
「おォッ!!」
威力は軽い。だが、確実に切断している。
衝撃はない。だが、見切れない素早さがある。
考え無しの斬り刻み。だが、技術があった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」
ザンッ!ザンザンザンザンザン!!!と斬られ、術の効果が失われていく時には、支配の厄災は全身から黒い液体を流しながら地面に倒れ込んでいた。