アーティファクト 2
トーゼツはさらにその奥へと進んでいく。
世界中を飛び回って冒険者活動をしているミトラでさえも、見たことのないような珍しい物があちこちに並んでおり、また使い古された剣や槍などもあり、まさに多種多様な武具が揃っているんだな、と彼女もまた理解していく。
(かなり質の良い品物ばっかりだけど……いくつか怪しいものもあるわね)
そのミトラの考えは間違っていなかった。というのも、このような場所で気を付けなければいけないのは、それが本当に安全な商品であるかどうか、ということである。
先ほども述べた通り、ここを通る一般市民は少なく、戦士の買い物が多い。また国境警備の兵士はともかく、常に魔物と戦ったり、任務を請け負っている冒険者は毎日と言っても良いほどに戦いを行っている。つまり、四六時中、死と隣り合わせだということ。そんな者たちが生き残るために武具にお金をかけるのは当たり前のことだ。
そこで、盗人が持ち込んできた高級な武具や商品などの取引も秘密裏に行われている場合も多い。知らずに買ったとしても、犯罪をしていることに変わりなく、それで捕まってしまう冒険者も毎年、数人出てきている。しかも、盗人としては金目の物を金に換えることに成功した時点で、もうその場から足が残らないように逃げ去ってしまうことも多い。
犯罪者があまり来る所ではないと述べたが、それは快楽殺人者や、性犯罪などの他者に襲い掛かる者がいないという話であって、ここでは、この場所特有の犯罪が起きやすいところなのだ。
「あまり見すぎるなよ、しつこく勧誘されて、結果、知らないうちに怪しい商品持たされて捕まる場合だってあるんだからな」
そのトーゼツの忠告を受けて、すぐさまミトラは並んだ商品から目を逸らし、前を歩くトーゼツの背中だけを見るようにするのであった。
「それにしても、こんな場所、よく残っているわね?小国ならともかく、この国、セイヘンは全体的に見てもかなり力を持った国でしょ?」
このミトラのいう全体的というのは、具体的に言えば経済力、軍事力、統治力と言ったいわば国力のことである。世界を見渡せば、自国内の治安さえ維持できない国というのはあちらこちらにある。それに比べれば、大国レベルとは言わないが、世界規模で見ればそれなりの力をセイヘンは持っている。
特に、首都に次ぐこの都市だって、かなり治安維持に力を注いでいるはずだ。それなのにも関わらず、こんな危険な場所があるというのは少しおかしな話である。
それに対し、ミトラの納得のいくような答えが返ってくるのであった。
「この場所は冒険者以外にも、兵士もよく出入りする場所だ。それで察してくれ」
冒険者とはいわば個人活動だ。外部から魔物討伐であったり、商人の護衛であったり、任務や依頼をギルドを通して受けているだけで結局は個々で活動が行われている。
それに対し、兵士は国に忠誠を誓い、働いているいわば公務員になる。もちろん、国からの命令があれば魔物討伐も行うし、貴族や政治家の護衛を務めるが、それよりも多いのは戦争に駆り出されることだ。
まぁ、ともかく、簡単に言うならば国家権力の一部であるということ。
そういうのを加味して考えればなぜこの場所が一斉検挙されないのか、容易に予測出来てしまう。
そして今もなお、この通りには兵士が行き来している。きっとトーゼツが全てを説明しなかったのは、彼らの耳にこの会話が入らないようにするためだろう。
「何処の国でもやっぱりブラックな場所があるのねぇ」
ミトラは過去に行った国々のことを思い返しながら、そのように思うのであった。