支配の厄災 16
トーゼツの顔は半分以上が火傷を負っている。また吹っ飛ばされた時に頭でも打ったのか、頭から血がだくだくと流れていた。一部の血が鼻や口に入り、とても不快な気分にさせられる。
腕で顔中に付着した血を拭い、「ぺっ!」と少しでも口に広がる鉄の味をなくそうとする。
無傷ではない。しかし、自分よりも肉体状態の良いトーゼツを見て支配の厄災は驚く。
「ば、馬鹿な……!生きているなど…特にお前が生きているなど…………!!」
ミトラは剣聖だ。アナーヒターは術聖。エルドはただの魔術師だが、術聖になれる可能性を持った才能のある魔術師だ。
その情報を支配の厄災は知らないが、さすがに戦いの中で只者ではないというのは実感できる。
しかし、使う術は全て中級か上級で、力もあまり感じ取れなかった少年が一番に起き上がってくるなんて。しかも、アナーヒターから防御魔法の支援があったからとは言え、戦闘継続には問題ないほどの負傷。
さらに支配の厄災の眼に映る彼の体からあふれ出る魔力量……明らかに増大していた。
(どういう事だ?何かしらの魔術か、もしくは魔具か……いいや、違うな)
そうして支配の厄災は一つの結論へとたどり着く。
「固有技能か!?」
であれば納得がいく。
厄災として数多くの戦士に戦いを挑まれ、打ち倒してきた支配の厄災は確かに見た事があった。死ぬことで発動する固有技能を。
(私が過去に経験したのは、死後に自身の肉体を全て魔力エネルギーに変換させ、凄まじい爆発を起こすものだったが……)
それは自分が行った自爆よりも巨大で、とてつもないものだった。半径二キロ以内のモノが全て焼却されて酸素すらも燃焼してなくなった。まさに真空状態となった。
しかし、トーゼツの持つ能力はより異質なモノであると推測を始める。
(死後に復活する……再生か?明確なことは分からないが、とにかく普通に殺しても無駄だというのは分かった。だが、それには条件があるはずだ。さすがに無条件で死後復活など、到底考えられない)
とそこまで推測を立てた所で思考を一旦中断させる。
全てを推測で語ってしまうのは危険だ。何処か一つでも読みが間違えていると、そこを起点により追い詰められてしまうかもしれない。
であれば―
「とにかく戦って情報を引き出すしかないか」
セプターを構えると、ダンッ!と大地を蹴り上げて、一瞬にしてトーゼツへと接近をする。
遠距離で爆発攻撃できる支配の厄災がまさか近接戦闘を選んでくるとは思っていなかったトーゼツであった。が、それ故に遠距離戦ではなく、相手が得意としないであろう近接戦闘へと持ち込もうと考えていたために接近されても動きが鈍ることなく支配の厄災の動きについていくことが出来た。
セプターを大きく振り上げ、それはトーゼツの頭をめがけて落ちてくる。
トーゼツは剣の持ち手、柄の部分を右手で。左手を剣身の部分で支え、両手でそのセプターを受け止めようとする。
グググッ!とかなりの力を込めて、それはゆっくりと、しかしながら確かな重みを持って落ちていく。