支配の厄災 12
それが絶対的な一撃。それは魔力を込めただけの素早く、鋭い一撃。それでもなお剣聖の一撃だ。大抵の相手であれば倒すどころか、オーバーキルしているだろう。
そう、大抵の相手であれば……。
剣による一撃を喰らってもなお支配の厄災は何ともない様子であった。また胴体を切断する勢いで斬ったものの、ソレの体は傷一つもついていない。身に纏っているボロボロのローブが切れているだけ。
だが支配の厄災の魔力によって編まれたそのローブも、まるで体の一部、傷口が細胞の力で治癒していくようにすぐさま修復されていく。
だが、その事の程度はもちろん、ミトラは予測していた。だからこそ、次の一手へとつながる一撃を放とうとしていた。
剣にさらなる魔力を送り込み、詠唱を始める。
「絶大剣術〈ケレリタス〉!」
剣の進む方向にあるモノ全てを焼き切るかのような明るく、鋭い閃光となって支配の厄災へと刃は襲い掛かる。それに対して支配の厄災もまた術を発動させる。
「〈エァキラ〉!」
その瞬間だった。
カァン!と刃と何かがぶつかる音が響く。
しかし、そこには何もない。
何もないはずなのだ。それなのにも関わらず、何か硬い壁でもあるかのように刃はぶつかり、強くはじかれる。
「ッ!」
きっと厄災が発動させた術の効果だ。だが、一体どういう効果内容だ?
目を凝らしてみるが、やはり分からない。
そして、ノックバックしてしまい、態勢を崩れたそのタイミングを逃さず支配の厄災は反撃を入れる。
「〈アンプリファイア・インパクト〉!」
セプターで腹部を思いっきり叩き込まれ、ミトラは数十メートル後方へと吹っ飛ばされる。
「ッ!ァッ!!」
その後も地面を何度かバウンドしてようやく彼女は止まる。
「おァ!」
口から熱く、真っ赤な液体がこぼれだす。
だが、思ったより痛みはない。というか、ダメージがすぐさま肉体からなくなってきている感覚があった。
一体、どういうことか。少しばかり混乱してしまうが辺りを見渡してすぐに気づく。戦闘の邪魔にならない程度には距離を置いて、魔術で支援をしているアナーヒターがいた。
彼女は空中にいくつもの魔法陣を展開しており、中級、上級の魔術を並行して運用していた。
「やっぱり、直接叩くよりも支援の方がやりやすいわね!」
エルドもまた彼女の魔術で体の動きが軽くなり、魔力量が増大しているのを実感しながら改めて理解する。
やはり彼女は術聖にふさわしい人物で、世界規模で見ても隣に並べる者はいないと言っても過言ではないほどのトップクラスの魔術師であるということを。
魔法陣のみ、無詠唱でこれほどの魔術の並行運用。
凄すぎる。
魔術の高みへと…自分もそこまで行けるのだろうか……。
いいや、行くんだ!
諦めずに前進しろ!
自分だって……!
エルドは再び杖を構えて、アナーヒターのように魔術発動の準備を始める。
それらの動きを見ていたミトラ、トーゼツも二人の支援を信頼して、迷う事なく剣を構えて突撃していく。