アーティファクト
次の日。
いつも通りであれば、トーゼツは冒険者ギルドへとメユーと一緒に行っているところだが、今日は剣聖ミトラと一緒に街を歩いていた。
これにはちゃんとした理由があるのだが──
(なんだか……気分が悪いな…)
行き交う人々の目線が多く、一方的に多くの人間から見られることに慣れていないトーゼツはかなり居心地の悪い気分になっていた。
やはり、昨日の行進で顔が広まったのからなのだろう。隣を歩いているのが剣聖であるというのが一発で多くの市民が気づいているようで、今もかなりの注目を浴びている。さらには、トーゼツの事を知っている人間は『なんでこんな奴と一緒にいるんだ?』なんて思っているのが雰囲気や表情で分かるのであった。
「それにしても、本当、ごめんね。昨日は剣を砕いてしまっちゃって」
「良いんだよ、安物だったしな」
あの時、トーゼツはしっかり剣に魔力を纏わせていた。それは剣術発動中だからというのもあったが、単純に威力の底上げ、刃の強化という目的もあった。というより、剣士であれば、剣に魔力を常に纏わせて戦うというのが常套である。
しかし、魔力を纏わせていたにも関わらず、ミトラの一撃で簡単に壊れてしまった。
それは、彼女の剣が強いことであり、自分が弱すぎたということだ。
「だが、良いのか?新しい剣を買ってくれるってことだが……」
「それはもちろん。私だって世界に数少ない剣聖の一人よ。世界中を飛び回れるほどの余裕がある資金は持っているわ。なんなら少しお高い魔具でも良いわよ」
彼女は胸を張り、どんな武器でも買いな!と言わんばかりの自信満々の顔であった。
「お、言ったな?」
にやり、とトーゼツは笑う。
彼女はそれを見て、どんな武器を買うつもりなんだろう。と軽い気持ちでトーゼツを見ていた。
(と言っても、もうどんな剣を買うのか、決めてたんだけどな)
そういって、トーゼツとミトラは街中の大通りを歩いていく。そして、大通りの中にあった薄暗い路地裏へと入っていき、その奥へと、どんどん進んでいく。
「なんだか大丈夫?ここって安全?」
こんな人目につかない路地裏というのは犯罪者の巣窟になっていることがやはり多い。
犯罪者、と言えばとても危ない場所のように聞こえるが……いや、もちろん危険な人物が多いのは当たり前だが、殺人鬼などではなく、窃盗や薬物依存者などの方がやはり多く、冒険者などの腕に自信がある人間にとってはなんとも無いものである。
「問題はない。それに、ここは俺のような冒険者はよく通る場所だ。犯罪者なんて寄り付かない場所なんだよ。っと、話している間に目的地に着いたな」
そこは、先ほどまで歩いていた大通りまでとはいかないが、路地裏なんかに比べれば広い通りへと出る。そこでは、カチン、カチンと鉄を叩く音があちらこちらから響いてきており、その場にいるほとんどの者が冒険者や兵士の恰好をしたものであった。
「ここは武具が集まる戦士のための通りだ。古今東西の武器、装備、道具が手に入る戦士にとっては必要不可欠な場所なんだよ」
しかも、この都市はセイヘンの国境沿いにあり、南諸国との貿易地点でもある。それほどに商人の出入りが多く、流れてくる商品も膨大である。
さらには、この都市には国境を守る兵士も多く住んでいる。それを商人たちも理解しているからこそ、その流れてくる半分以上が武具であり、また鍛冶屋なども多数、存在している。
しかし、戦士ではない一般市民にとって武具は必要のないもの。故に、大通りから離れた、鍛冶場の音も迷惑にならないこの場所に商人も、商品も、鍛冶職人さえも集中してしまっているのだ。